正直言うと 一体それが何なのか 名前など付けたくは無い。
 俺と…そして 雛森と。同じモノを感じていれば それで良い。
 他のヤツに説明するものでもなんでもないから 名前なんて要らないし 付けたくない。
 けれども 敢えて言うならば 何になるだろう。

 もしかするとそれは 合図という名前になるかもしれない。



Lovecall




 ガタンと勢い良く日番谷が立ったのに驚いて 松本の肩がびくんと跳ねた。

「た 隊長?何ですかいきなり 吃驚するじゃないですか…。」

 そう言う松本の声を無視して 焦り気味に日番谷は扉まで行って手をかけた。
 かと思った途端 ぴたりと動きが止った。

「…隊長?」
「はー…。」

 深い安堵の溜息をついたかと思うと 日番谷は扉にごちんとおでこを当てた。

「良かった…。」

 は?と松本は顔をしかめて日番谷を見た。
 またワケの解らない。そう思った後に 以前も同じような事があったことを思い出した。
 そういえば 五番隊の管轄に大虚の大群が出たと聞いていた。そうなると 全てに合点がいった。

「…隊長」
「あん?」

 のろのろと机に戻ろうとする日番谷に松本は声をかけて それからにんまりと笑ってみせた。

「行ってらっしゃい。」
「………。」
「報酬はなんか冷たいもので。あ そういえばこの間出来たお店のアイス美味しいらしいですねぇ。」

 わざとらしく強調してから 松本は犬でも払うかのように手を動かした。

「ささ 行ってらっしゃい。」
「…バニラで良いのか?」
「うーん 出来れば抹茶が良いです。」

 返事はせずに 日番谷はくるりと背を向けて部屋を後にした。

「良いわねぇ 若くって。」

 そんな所帯地味た台詞を吐いてから 松本は目の前の書類とのにらめっこを再開した。
 早く抹茶アイスが届くことを考えながら。










「あはっ…」
「あは じゃねぇよ。」
「たっ ただいま日番谷君!」
「ただいまでもねェ。」

 誤魔化しようが無い事を理解して 雛森はぐっと言葉を詰まらせて 申し訳無さそうに日番谷を上目遣いに見た。
 無意識なのだろうが 何故俺より背が高いくせに上目遣いになるのだと日番谷はいつも不思議に思う。

「……なんでわかっちゃうかなぁ。」

 怪我らしい怪我をしていない自分の体を不思議そうに一通り見てから 雛森は日番谷に視線を戻した。

「解るもんは解る。」

 日番谷はきっぱりと言い切って 雛森の頬をぐいと引っ張った。

「いふぁっ!ひふふぁやふん いふぁい!」
「何言ってんのかさっぱりわかんねぇ」
「ひふふぁやふんのへいへひょ!」

 必死になって反論する雛森に笑ってから 日番谷は手を離した。

「お前は本当にドジなんだから 気ィつけろって再三言ってンだろ?」
「け 結局大丈夫だったんだから良いじゃない!」
「駄目。俺の仕事が中断されるから。」
「うう…。」

 『わかる日番谷君が悪い』と呟いた雛森の声を 日番谷はしっかりと拾って わざとらしく溜息をついて見せた。

「神様にでも言ってくれ。」
「…だって…泣いててもわかるし 怪我しかけてもわかるし 怪我しても隠せないし!前の時だって…」

 不公平だといわんばかりに口を尖らして雛森は実例を連ね始めので それを遮るようにして日番谷は答えた。

「お前だって絶対俺の怪我に気付くだろ。」
「むむ…でもあたし 日番谷君泣いててもわかんないよ?」
「アホか 泣かねぇよ。」

 えーと雛森は頬を膨らますが 実際日番谷が涙を流した時 其処には必ず雛森が居た。
 どっこいどっこいである事に気が付いているのは日番谷だけで 雛森は良く実感が湧かずに居る。

「何でわかるの?テレパシー?」
「お前が合図でも送ってんじゃねぇの?」
「……日番谷君助けてー って?」
「そ。」
「……。」

 間髪入れない突っ込みが入るであろうと思っていた日番谷は その後の数秒の意外な沈黙にきょとんとした。

「雛森?」
「…かもしんない。」
「は?」
「ウソ?!あたしそんな電波発信してたの?ど どうしよー…!」
「は…?」
「あ でも変な人が来たときはスーパーマンみたいに来てくれるならカッコ良いよね!でもお仕事邪魔しちゃうのは…。」
「………。」

 一人ぶつぶつと悩んでいる雛森をよそに 日番谷は一人そっと頬を朱に染めて それを紛らわすために首筋をかりかりと掻いた。

(…何だそれ)

 つまり

「四六時中俺の事考えてるわけ?」

 日番谷が素直な疑問を口に出すと 雛森はきょとんとした顔の後にぼっと顔を真っ赤にさせた。

(…と、いうことは、だ。)

 そうなると 日番谷も四六時中雛森の事を考えていることになる。
 泣きたい時には 雛森から隠れているつもりで 来てほしいと考えている自分が居た、という事にもなる。
 ぱくぱくと口を金魚のように開閉させて何か反論をぐるぐると考えている雛森を見て可愛いと思いつつ 日番谷も日番谷で必至にフォローを考えていた。

「あ。そうだ。」

 フォローというよりも 二人で居る時間を延ばす方法を見つけて 日番谷は口に出した。

「抹茶アイス。」
「へ?」

 唐突に飛び出してきた単語にきょとんとする雛森の手を取って日番谷はすたすたと歩き始めた。
 手を引かれながら慌ててついていきながら 雛森は未だ混乱した顔で目を瞬かせた。

「ひ 日番谷君?何で抹茶アイス?」
「あの 丘の上に出来た店知ってるか。」
「あ うん。アイス美味しいらしいね。」
「あそこの抹茶アイス。」
「日番谷君食べるの?」
「食べん。」
「へ?」
「差し入れ。もとい賄賂。もとい…」
「ひ 日番谷君?話が見えないんだけどー?!」






 二人を繋ぐものが合図なら
 今日も明日も明後日も 君に合図を送ろう。



 愛してるよと 合図を送ろう。














::後書::

ナンダコレ。
…ごめんなさい 正直に言って謝る以外何を言えばいいのかわかりません。(笑…えない)
まず突っ込み。

何処が甘?

…無理にラストの文にだけ角砂糖3つ入れてみましたが 如何でしょうか…?;;
紫苑的には随分頑張ってみた方なのですが。(笑)
ともかく 少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
呆然としている間に5000打です。吃驚です…(汗)
皆様と、そして報告してくださった上にリクエストまで下さった!(感涙)揺月様に感謝です!
ありがとうございますっv

5000打を踏んで下さった揺月様へお捧げ致します。

*揺月様のみお持ち返りが可能ですが返品は不可です。(笑)*