幾度となく葉は茂りそして枯れ落ちた。
 幾度となく月は満ち欠けを繰り返し
 幾度となく日は昇りそして落ちた。

 一番最初にこの日を思い描いたのは いったい何時の事だろうか。




 鐘の音と共に告げられる福音を。



Love & Love




「…何時かなるとは思ってたけどねぇ…。」

 縁側でお茶を啜っていた京楽は ふと時計を見てやっと腰を上げた。

「そろそろ準備しなきゃだねぇ。」

 ざわざわとし始めた廊下の雑音に耳を傾けながら 京楽はふと微笑んだ。
 まさか先を越されるとは思ってもみなかった。そろそろ身を固めないとかねぇ と思い 一人の女性の姿を思い浮かべる。
 なかなか脈アリにもなってきたのだし、そろそろアタックしてゆくのも良いかもしれない。

「さて…」

 洗面所の前に立って 何から始めようかと頭をひねってから 京楽はその伸び始めたヒゲを剃る事から始める事にした。




「京楽 用意は出来たか?」

 祝辞用の良く着方の解らない『すうつ』の着付けが終わった頃に 浮竹が襖越しに京楽を呼んだ。

「はいはい。今行くよ。」

 そう返事をして もう一度洗面所の鏡で姿を確認してから襖を開けた。

「待たせたね。」
「いや。随分気合が入ってるじゃないか。」

 そう返した浮竹は少し疲れた目で微笑み、昔よりも幾分やつれた事を実感させた。

「体は大丈夫なのかい?」
「ああ。それにしても早いな…。」

 溜息交じりのその台詞に 京楽は肩を竦めてみせた。

「こんっなにチビだったのにねェ。歳を実感しちゃうよ。」
「全くだ。俺もお前も 随分老けたよ。」
「お前は元から白髪だから良いけどねぇ。自分の髪の中に白髪が混じっていた時のショックといったら…。」

 わざとらしく首を振って溜息をつく京楽に 浮竹はくすりと笑った。

「早くないか?若白髪だな。」
「苦労してるからね。」
「君が苦労してるなら 伊勢さんの苦労は苦労の域を越しているな。」
「七緒ちゃんに苦労かけてるつもりはないんだけどねェ…。」
「いい加減そのちゃん付けはどうにかしたらどうだ?そんな歳でもないだろうに。」
「癖だよ、もう。」

 最早数百年と繰り返してきた何気無い会話に幸せを感じるようになってしまった。
 やはり歳か と京楽は苦笑した。
 そんな取り止めの無い会話の後に 式場が見えてきた。もう人々が集まっている。
 隊長各の式などという大掛かりなものは何十年ぶりだろうか。始めてみるという隊員も少なくは無かった。

 そろそろ時間か と浮竹は時計を見て呟いた。
 新郎新婦の入場だ。

「全く、このくらいしか楽しみがないのぅ。」

 ふっと唐突に現れた山元に驚きもせずに二人は振り返った。

「山じぃは本当に長生きだねぇ。」
「お元気そうで何よりですよ。」

 じ、と山元を見る京楽の視線に気付き、浮竹が訝しげに問い掛けた。

「どうした?」
「…いや…山じぃが祭司だよな。」
「うむ。」
「……似合わないな、その服。」

 真顔でそう言い放った京楽に、浮竹は一瞬噴出しそうになって無理に堪えた。

「…ふん、言うてくれるわ。お前のその『すぅつ』姿の方が笑えるぞ。」
「『すぅつ』じゃなくて『スーツ』かと…。」
「細かいことは気にするな。」
「ボクも言えないなぁ。すぅつ。」
「…いや…。」
「それより山じぃ、時間は良いのかい?」

 その京楽の台詞に、浮竹と山元は同時に時計を見た。

「ん、行かねばならぬの。」
「遅刻じゃないですか?!」
「気にするな。」
「いや、ホント!急いで下さいよ!」
「山ジィ、遅刻は問題だ!」

 ぎゃぁぎゃぁと騒ぎ立てる二人に背中を押されながら、山元はふと空を見た。
 二羽の白い鳥がじゃれていた。
 眩しさに、そっと目を細めて、歩み出した。

(二人の道に、幸多からんことを。じゃな。)








「………っ」

 先ほどから必死に雛森は右手、右足が同時に出そうになるのを直していた。
 なかなか上手くいかなくて、緊張しすぎている事をことさらかんじる。
 「どれす」という名前のソレは見た目よりもずっとずっとキツくて、呼吸すら上手くいかないのが余計緊張を煽る。
 新郎新婦が式前に会う事が出来ないせいで、また更に緊張を積み上げてゆく。困ったものだ。
 元々洋式の結婚式は自分達が始めてで、知識のある者も少ない為に見様見真似だ。
 すぅ はぁ ともう一度深呼吸をして胸を叩いた。
 大丈夫、頑張れ。
 今日で「雛森 桃」とはお別れなのだ。最後ぐらい気合をいれてお別れしてあげよう。そう何度目かもわからない台詞を、心の中で繰り返した。




「………。」

 日番谷といえば その頃鏡を前に誰だコイツという自問自答を繰り返していた。
 普段垂れさせている前髪は全て上げられ 長くなった裾髪は後ろで固められた。
 おおよそ自分らしくない姿に違和感を感じて眉間に皺を寄せては 雛森のドレス姿がどんなものかと考えて緩みそうになる頬を直した。
 きっと 世界の何よりも美しいだろう。

(いや、桃は元々一番美人だけど。)

 その思考回路が惚気という事にも気が付かず ただ早く会える事だけを待っていた。
 先に新郎の入場らしい。呼びに来た男に頷き返して ぱんと膝を叩いて立ち上がった。
 今日で最後に会う事になる「雛森 桃」に会うために。
 そして 今日始めて会う「日番谷 桃」に会うために。








 嗚呼、鐘の音が福音を鳴り響かせる。










 日番谷冬獅郎と雛森桃が姓を同じにして、もう10年になる。
 とはいっても、現実世界の流れでいうと約1年なのだが…。

 砕蜂はその宛名を見てわざとらしく顔を顰めてみせた。
 行きたくない。それが正直な感想だったが、この書類を部下に任せるわけにもいかなかった。
 はぁ、と深く溜息をついて、砕蜂は渋々と足を進めはじめた。






「桃。」

 書類を片付け始めた桃に、冬獅郎は顔を顰めた。

「なぁに?」

 きょとんとした顔で返事を返す桃に、わざとらしく溜息をついて見せて、硬い髪をがしがしと掻くと冬獅郎は立ち上がった。
 桃の手から書類を奪うと、少し眉間の皺を深くして桃を見下ろした。

「あんまり無理するなって。家でおとなしくしてろよ。」

 桃はへらりと笑って、冬獅郎の持っている書類へと手を伸ばした。

「そうもいかないでしょ。それに、動かない方が難産になっちゃうんだよ?それでもいい?」
「…いや、それは困るけど」

 何よりも効き目のある言葉ということを承知しての発言だった。
 最近、桃が口達者になってきている気がする、と冬獅郎は改めて思った。

「少しぐらい、冬獅郎のお手伝いしたいし。」
「けどよ、折角休暇とってるんだぜ?」
「うーん、でも…。」
「俺が心配で仕事が手につかねぇんだよ…。」
「あはは、冬獅郎は昔っから心配しょうだねぇ。」
「そういうお前は、自分の事にだけ無頓着すぎ。」

 そう、桃は今「妊婦」なのだ。
 冬獅郎が無理やり取らせた休暇を持て余して、結局冬獅郎にくっついてこちら側にまで来てしまっている。

「大体、俺はお前に倒れられたら…。」
「だから心配症過ぎだって!最近、冬獅郎お父さんみたい。」
「今からなるんだろ?」
「…あ、そっか。」
「そっかじゃねぇだろ、“お母さん”?」
「ふふ、変な感じ…。」

(…どうするべきなのだろうか。)

 筒抜けの新婚会話を聞きながら、砕蜂は軽く米神を抑えた。
 この会話の中に入ってゆける勇気はない。
 以前より長い片想いであったことは周知の事実で、砕蜂自信も興味はなかったが耳にしたことぐらいはあった。

(その相手と結婚できたというのだから、まぁ、多少なりはしゃぐことは多目にみてやろう。)

 しかし、これはどうだろう…。そう思いながら砕蜂は深く深くため息をついた。隊長各二人が、砕蜂の霊圧にすら気付いていない。
 意を決するしかないのか。そう思いながら、半分ヤケ気味に砕蜂は扉に手をかけた。

















::後書::

まず、フォントを大にして言うべき事は。
これ、日雛?
次にフォントを大にしていうべきは。
結婚式洋式ですか。
つか妊娠ネタかよ?!
っていうか砕蜂が締めるの?!

…ホントごめんなさい。ホントすみません。(土下座)
結婚式行った事ないので、省きました。(滝汗)
サブキャラメインになってしまいました。何処から間違ったのかしら…(初めから)
題名に至っても、悩んだ末がそれかよ、みたいな…(殴)
砕蜂の100年後っていうのが解りづらいですが、性格が丸くなったということで…(滝汗

5555打を踏んで下さった鈴宮様へお捧げ致します。

*鈴宮様のみお持ち返りが可能ですが返品は不可です。(笑)*