「それじゃあ、お休み。」

 何時もとかわらぬ口調で、何時ものように、日番谷は別れを口にした。

「うん」

 雛森も同じように、何時もの様に笑顔を返した。

Sweet & Overlap


 消して人前では手を繋がない。
 それは、二人の言葉にしない約束事。
 変な噂がたたないように、上下の人たちからの印象を損なわないように。
 相手のためであり、自分のためでもある。大切な約束。

 雛森は、そっと振っていた手を下ろした。廊下の木の目を見つめる。
 解っていても、時折不安になる。
 心臓の痛みも感じない振りをして、雛森は日番谷の背中を見送っていた。

 ふと、唐突に日番谷が足を止めた。

「雛森、部屋寄ってけよ。」

 唐突の誘いに、雛森は目を軽く開いた。

「え」

 部屋に入るときを人に見られでもしたら、明日は仕事など出来なくなってしまうだろう。
 周りの柵から逃れるために、今まで私情の話はこうして夜の僅かな時間に廊下で話す程度に留めていたのに。

「…な」

 良いだろ、と目を細めて日番谷は僅かに笑んだ。
 断れるはずもなかった。雛森は、ちらりとあたりをうかがってから、照れくさそうにはにかんで小さく頷いた。

 久し振りに入る彼の部屋に、思わず好奇心で目が動く。
 相変わらず殺伐とした生活感のない部屋に、数枚の書類が取り残されたように落ちていた。

「悪いな、少し散らかっていて。」

 あまりに凝視してしまっていたのだろう、日番谷が少し申し訳なさそうに声をかけた。

「あ、ううん、全然。」

 慌てて首を振り、そしてまた目が泳ぐ。
 何時もは考えるまでもなく口から出てゆく言葉が出てこなかった。
 ドキン、ドキンと心臓が痛いぐらいにはじける。

 別の事を考えようと、慌てて声を出す。

「久し振りだね。」

 日番谷は静かに答えた。

「だな。」

 そうして、また会話が無くなる。
 しかし日番谷は特に気にする様子もなく、布団に座り込んだ。
 雛森がおどおどと隣に立っていると、彼は彼女を見上げた。

「座れよ。」

 そう云われ、雛森は少しおどおどと歩を進めた。
 どのくらいの距離で座ればいいんだろう。どう座れば違和感がないんだろう。そんなことを、ぐるぐると考える。

 その時、ぐいと唐突に日番谷に腕をひかれた。

 え、と思ったときには、既に雛森は彼の腕の中だった。妙な姿勢で倒れこんでしまったせいで、腰が少し痛いが、姿勢を直す事など出来はしなかった。
 緊張と、緊張している自分への羞恥心で頭が真っ白になる。
 ぎゅう。彼の腕に力が入る。

 突発的に動きすぎた心臓が痛みを訴えている。
 心臓はきっと、彼女におちつけとでもいいたいのだろう。しかしそんなわけにもいかない。
 硬直していた雛森は、僅かに動いて、何かいいたげにせわしなく口を動かした。
 しかし声は声になっておらず、口を開閉する様はまるでえさを求める金魚のようだった。

 其の唇を、日番谷は何も云わずに塞ぐ。

 雛森は、うぐ、と小さくうめいた後に静かになった。
 少しずつ、ほんの少しずつ心臓がおちついてゆく。
 介入しようと試みてくる舌を受け入れる。其れは許された瞬間に、するりと入ってきた。
 絡めて、歯をなぞって、また絡める。熱く、熱を持った行為。

 雛森が、溜まった二人の唾液を飲み込む。

 ぐ、と小さく日番谷がくぐもった声を出した。
 僅かに息をするために離れ、そしてまた間を空けることなく其れを再開をする。
 スイッチさえ入ってしまえば、残りは言葉などなくても成るままだった。

 体が硬いことを、雛森は自分自身で感じていた。
 アカラサマに拒むことはできなくて、でも悦んで受け入れることがあまりにも淫らな事に感じて、どうしようもなくなっている。

 少しずつ彼の行為を受け入れてゆく。
 上から下へ、なぞるように唇が落ちてゆく。
 手はその唇の道筋を確保するために、先に下へと降り、帯をいとも簡単に外してみせる。

(あたし一人だけ、ドキドキしてるみたい)

 少し悔しくて、覚えたての反抗をする事にした。
 ぐいと、日番谷の頭を両手で抱えて顔を近づける。行為を中断させられたことに不服そうな彼の眉間を嘗めて、耳へ舌を入れる。

「ちょっ、待て!」

 途端に日番谷はぎょっとした顔をして、どうにかして舌から離れようとするが、すぐに離してしまっては反抗にならない。
 雛森は手に力をいれて、耳の中を態と音を立てて嘗め回す。

「ふっ…ぅ…」

 ちゅるり、じゅる、と卑猥な音が響く。
 ぎゅっと日番谷は目を瞑り、漏れでそうな声を堪えている。

「はっ…」

 日番谷の乱れた息が耳にかかる。
 途端に、彼を急に身近に、愛しく感じた。

「っ…もっ…降参っ!」

 日番谷に引っぺがされ、雛森はやっと其れを止めた。
 ぺロリと自分の唇を嘗めて、満足感に浸る雛森は、自分の単純さに思わず笑いがこみ上げた。

「……なんだよ。」

 主導権を一瞬でも握られた事に不服げな日番谷に、雛森は笑いかけた。

「日番谷君、可愛い」

 にやりと笑った雛森に、日番谷は眉間の皺を深くした。
 自慢気にしている雛森の背筋を、下から上へとなぞる。

「ひぇ?!」

 唐突のことに、雛森がびくんと跳ねた。

「ちょ、まっ…くすぐったっふ、あはっちょ、ふあはは!!!」

 苦しそうに笑いながらじたばたと暴れる雛森の上に乗るようにして、日番谷はニヤリと笑った。

「俺の勝ち。」

 その余裕ぶった口調が悔しくて、雛森はぷぅと頬を膨らました。

「もう、日番谷君の莫迦〜!」

 わき腹でもこそばそうとしたその手をつかまれ、そのまま再び深い口付けをされる。
 唐突のことにきょとんとしたものの、雛森のその瞳は直ぐにトロンとした甘いものへと変わった。

「…桃。」

 静かに耳元で囁かれたその言葉に応えるように、雛森はクスクスと笑った。

「大好きだよ。だぁいすき。」

 まるで幼稚園児の婚約の誓いのように、雛森は繰り返した。
 何も阻むもののない直のその肌の温もりが、何よりも嬉しくて、幸せだった。









::後書::

まず、ほんっとうに遅れてすみませんでしたー!!!
難しい!エティのは書いてて恥ずかしくなってしまって筆が進みません!(殴)
いや本当に恥ずかしかった。
こういう行為の中に、笑顔があるのっていいですよね。
ということで。(強制)
あんまり攻めになってなくてすみません…orz

*あめでお様のみお持ち返り可能*