どことなく忙しい、午後。
 どことなく落ち着かなくて、胸焼けがする。

One*Excuse


 イラ、イラ。
 部下に八つ当たりをしないようにだけきをつけて、投げやりに仕事を終わらすと部屋を飛び出した。
 息苦しくて、心臓を掌握されてるような気分になる。

「冬獅郎っ!」

 まるで子供がはしゃぐときのような、幸せそうな男の声が響いた。
 嗚呼。日番谷は、何か重い物を手にぶら下げているかのように肩をがくっと落とした。
 声が何時もよりも数倍軽やかなところが、尚更重い。

 厭、しかし、(例えどれだけ理由がくだらなくとも)可愛がってもらい、様々なところで世話になっているのだから、邪険にするのは恩知らずというものだろう。
 そう思って、今にも逃げ出そうとする自分を叱りやっとのことでそこに立ち止まった。
 少しばかり深呼吸。吐いて。出来うる限り、眉間の皺を減らして。

 気合を入れて、振り返る。

 予想通りに、そこにはニコニコと笑顔を振り撒く男の顔があった。
 同じ…とはいっても、彼の方は白に近いが…銀髪を持ち、そして何時見ても病弱そうな顔をする男。
 名前が似ているという他愛も無い理由で、毎度毎度餌付けでもするかのように菓子をもってくる男。
 思わず溜息をつきそうになるのを必死に堪えた。こんな時ばかりは、何時も無愛想な自分の顔に感謝しそうになってしまう。

 彼の事は苦手か?そう尋ねられると言葉に詰まる。
 決してそうではないし、寧ろ好き…というには大げさだが、権力を振りかざすことのないあの性格には好感をもっている。
 しかしながら瀞霊廷内で、大きな声で殆ど誰にも呼ばれることのない冬獅郎という名を呼ばれるのが気恥ずかしいのも確かである。

「…何の用っスか、浮竹隊長。」

 精一杯の嫌味を込めたその台詞は、いつもの笑顔で一蹴された。流石、と思わず感嘆しそうになる程の手際である。

「いやあ、得に何というわけでもないんだけれども」

 そう笑いながら浮竹は懐を探り出した。何時ものパターンである。
 そう、そこから出てくるのは必ず―…

「此れを渡そうと思ってね。」

 其れを見て、日番谷はきょとんとした顔をした。
 出てきたものは、何時ものあまったるい御菓子ではなく。
 少しばかり可愛らしくおめかしされた、封筒だった。
 おや、と意外に思っていると、ああわすれていたと結局何時もの御菓子が懐から出てきた。
 何時もより、ほんの少し多目の。

「其の手紙、雛森君に渡してくれないかな。頼んだよ。あとこれ、雛森君が食べたがっていたから、一緒に食べるといいよ。」

 ふんわりと笑って、浮竹はそそくさと姿を消した。
 ぽかんとその背中を見送ってから、日番谷は突然肩を落とした。


「やられた」


 掠れた声で呟く言葉は、溜息交じりだった。
 なんて野郎だ。
 嗚呼、と米神を抑える。頭が痛い。

 見透かされて、いた。

 本当は解っていたのだ。
 解っていたけど、解っていないフリをしていた。
 この胸焼けの原因など、はじめから一つしかないのだ。

 畜生、と自分に毒づく。
 借りをひとつ、増やしてしまった。

 荒々しく歩を進めると、五番隊の扉を叩く。


「雛森、いるか?入るぞ」





 ずっと、君に会う言い訳ばかり求めていたんだ。












::後書::

雛森でてないとか突っ込んじゃイヤンです!
長らくお待たせした上にリハビリ件のぎこちない文章で申し訳ないです…!ヒィ〜!
完全なるヒツ→雛を、がんばって応援する感じで如何でしょう?
お気に召して下さったらいいなぁ…(弱気)

*沖島様のみお持ち返りが可能です。*