One&Body
滴る水が目に入らないよう、前髪を後ろへと流す。
ふぅ、と息を吐いて手ぬぐいを首にかける。ふと、洗面所の鏡が目に入る。
鎖骨より、数センチ上。さぁっと血の毛が引くのを感じた。
「おいコラ!莫迦桃っ!」
ベッドの上でうつぶせになりながら、彼の風呂が終わるのを待っていた桃が、パタパタと動かしていた足を止めた。
彼に見えない位置で、いたずら小僧のようにベロを出した。バレてしまったらしい。
「何してんだよっ!」
寝間着を腰で止めた日番谷が洗面所から飛び出してきたので、桃は肢体を隠す為にシーツを手前に引き寄せた。
何に怒っているのかなど、聞くまでもない。
「日番谷君の真似だよ。」
えへへ、と笑うと、即効でアホかとデコピンを喰らった。
「服着たって、ここは隠れねえぞ…」
自身の首筋をなぞる爪の先には、紅色の跡。
成る程、死覇装をいくらしっかりと着ようとも、この跡が隠れることはない。
キョトンとした顔で跡を見つめていた桃は、ふと冬獅郎の顔を見上げた。目が合う。
理解をしていないのかと思い、冬獅郎が再び説明をしようと口を開こうとしたそのとき、桃はぱぁっと満面の笑顔を見せてハッキリと答えた。
「うん!」
満面全開全力の笑顔である。
確かに、以前見境なく跡をつけたせいで、桃が真夏にショールを巻きつづけなければいけない事態を起こしたことがあるのは、抗いようのない事実である。
しかし、だからといって、ハイそうですねと引き下がるわけにはいかないのが男の意地である。
「いい度胸じゃねえかっ!」
ベッドの上に寝転ぶ桃にのしかかるようにダイブすると、スプリングが派手にきしんだ。
驚いて彼女が引き寄せたシーツを取り払う。
暗がりでもう十分に裸体を見たというのに、白光の中では羞恥心も強まるらしく、いやいやと暴れる彼女を少し強めに押さえ付ける。
上にまたがってしまえば、角度をうまくすればたいした力は必要ない。
「おしおきだな。」
桃の頬が引きつるのを確認してから、首筋に顔をうずめる。
顎先から左耳に向かって、骨をなぞるように舐める。
びくり、と彼女の肩が跳ね、抵抗していた力が弱まった。
「た、んまっ…!」
右耳の中を指で遊ぶと、あううと情けない声が漏れた。
顎の下の肌を、口先をすぼめてちゅうと吸う。最後の抵抗といわんばかりに桃は彼の胸板を押し返したが、すぐにカクンと力が抜ける。
あっというまに紅色のキスマークが出来上がる。唇を離して、それを目視してから仕上げにぺろりと舐める。ついでに耳を開放してやると、桃は真っ赤になりながら大きく息を吐いた。
「ふむ。」
彼女をしたにひきながら、冬獅郎は改めてその眺めを楽しんだ。
涙目になった彼女が、うぎゅうとよくわからない奇声を発した。
「脱がせといて自分は着てるって結構いいな。」
「へんたあああああああい!!!!!」
間髪いれない突込みと同時に、桃は全力で彼を退けようと暴れた。
お前もだろう、と笑いながら冬獅郎は腕を押さえ付ける。
赤い乳房の先を舌先で舐めると、びくんと桃の体が跳ねた。あっというまに静かになる。
逆側の乳房を手のひらで包み込むと、もう桃は抵抗しなかった。
「感じないとこ、ねぇくせに。」
「そんなこと…ないも…っ」
発した声はもはや否定の意味をなしていなかった。
声が出ないようにとかみ締めた小指をそっと外す。首筋から臍へと徐々に移動する接吻が終わったころには、肢体に見事な花が咲き乱れていた。
「花見酒がほしいとこだな。」
自分の傑作を上から眺めながら冬獅郎は満足そうにつぶやいた。桃が下で悔しそうに唸るのもお構いなしである。
本格的に桃が拗ねようかと思案しはじめた時、ふと彼は彼女の髪を撫でた。
思わず表紙抜けして、ぽかんと彼を見ていると視線が合う。
「…そんなに、心配だったのか?」
桃はいつも、彼は卑怯だと思う。
いつだって主導権は彼にあり、自分はからかわれて遊ばれて、彼の思うがまま。
そのくせに。
そのくせに、唐突にこんな風に眉を八の字に情けの無い顔をして、あたしが居なきゃ駄目なんだ、という気分にさせる。
腕を伸ばし、彼の首を捕らえて引き寄せる。
冬獅郎は抵抗せず、そのまま上に覆い被さるように倒れ込んだ。
力いっぱい抱きしめる。
心配。とても心配。だけど、信じてるから、怖くはないよ。
腕に、メッセージをたくさんこめて、強く強く抱きしめる。
どちらともなく唇を重ねて、どちらともなく目を瞑る。
時々、身体が邪魔になる。
身体などなくなって
一つに溶け合えればいいのに。
引き裂かれる日など、こないように。
+戻+
::後書::
お待たせいたしました…orz申し訳ないです〜!!
イチャイチャ二人。後半日番谷君が攻めでない気もします。(殴)
お気に召してくだされば幸いです…というか、本当に遅すぎて申し訳ありません…!
*akina様のみお持ち返りが可能です。*