さようなら。
さようなら。
何度も繰り返す。
何度も繰り返す。
さようなら。
未だ 別れられぬ人よ。
「莫迦。」
涙で濡れた枕に顔を埋めた。
「莫迦 莫迦 莫迦 莫迦 大莫迦。」
淡々と 感情を込めずにその言葉だけを発する。
「莫迦ギン 莫迦ギン 莫迦ギン 莫迦ギ…」
声が涙で一瞬掠れる。っく と押さえた嗚咽が漏れた。
悔しい悔しい悔しい悔しい
哀しい哀しい哀しい哀しい
「…ば…か …ギンっ…!」
ぷつん と糸が切れたかのように泣きじゃくる。
貴方はまた 何処かへ行ってしまうの?
貴方はまた 私を置いて行くの?
せめても理由でも 教えてくれれば。
せめても言葉でも 残してくれれば。
さようなら。
さようなら。
何度も繰り返す。
何度も繰り返す。
さようなら。
今未だ 別れられぬ人よ。
「…阿呆やね。」
自責の念 などと可愛らしいものでもないが いい加減自分にも嫌気というものも差す。
「泣いてるかなぁ 今頃。」
まさかと思いつつも 安易に想像できるその姿に苦笑する。
独り言が寂しく闇に紛れていった。
目を閉じても 何をしても 浮かんでゆくあの表情 あの髪 あの目。
触れられそうなぐらい 細かく 明確に浮かぶその姿。
愛おしいのに 伝えられない。
愛おしいから 伝えてはいけない。
ボクはまた 君を置いてゆく。
ボクはまた 何も告げずに出てゆく。
君を巻き込まないために。
君を手放せなくならないように。
さようなら。
さようなら。
何度も繰り返す。
何度も繰り返す。
さようなら。
今未だ 別れられぬ人よ。
置いていかないって 約束したのに。
意地悪 意地悪 約束破り。
約束 したのに。
もう 二度と…。
また溢れてくる涙が憎らしくて憎らしくて 乱菊は強く目を擦った