ねぇ 知ってる?
 貴方は


 苦い 嘘しかつかないの。


 ねぇ 偶には
 ケーキの様に甘ったるい嘘ぐらい ついてくれればいいのに。




「例えば?」
 その質問に 乱菊は眉間に皺を寄せた。何の事かわからずに 鸚鵡返しにその質問を返した。
「例えば?」
「さっき乱菊 甘いウソついて欲しい言ったやん」
「…ホント?」

 ひくりと頬が引きつるのを感じた。
 いつの間に口にしていたのだろうか という後悔の念がどわりと押し寄せてきた。

「乱菊 変。」
「…そんな事無いと思うけど。」

 そうは言いつつも 変な事は百も承知だった。
 どうも調子が出ない。
 何が起こったのだろうか 風邪はひいていないと思うしと ううんと首を捻ったが 勿論予想していた通り答えなど見つからなくて。

 そうやねぇと 悩むそぶりをしてみせてからギンは乱菊の耳元でそっとささやいた。


 -好き やよ


 やっぱり苦い と素直に思った。

「嘘だとわかっている嘘は嘘じゃないから やっぱりそれはそれを含めて苦い嘘なのよ」
「何言うてるか 乱菊自分でわかっとる?」
「まさか」
「やろね」
「ああ もう嫌。もういい。」
「乱ぎ…」
「お酒呑みたい。」
「は?」
「苦い苦い お酒。」

 他のすべてが 甘く感じるほど
 苦い苦いものが欲しい。

「乱菊」
「なぁに」
「好きやよ」

 先ほどよりもトーンの下がった声

「嘘じゃなくて」

 それすらも 嘘のくせに
 解っているくせに おぼれてく
 解っているくせに 涙が溢れてく。

「殺したい程?」
「奪い尽くしたい程。」

 殺すなんてあかん それじゃ何も僕のモノにならへん。
 諭すような 甘やかすような それでいて厳しい声。

「莫迦」
「そやね」
「…ありがとう」
「どういたしまして?」

 嘘の偽り
 偽りの嘘
 甘い甘い
 虚空の嘘
 嘘の虚空

 スキだなんて 薄っぺらい言葉。

「ギン」
「ん?」
「あたし」
「うん。」
「嫌い。」
「うん。」
「あたしが。」
「え?」

「あたしが 嫌い。」
「僕は好きやよ」
「だから アンタも嫌い。」
「それでも僕は 君が好きやよ。」

 甘すぎて
 温すぎて


 どろどろな チョコレートみたいで。



 ああ
 甘ったるい嘘だな と
 やっぱりたまにはいいかな と
 そんなことを おぼろげに考えながら まどろんだ。