全部綺麗に消えてしまえばいいんだ。
  まっさらに
  まっしろに
  何もかも なかった事になればいいんだ

  できないことなんて 百も承知だけれども
  愛してるのささやきに貴方を求めて

  何百と囁いたその名前を飲み込んで
  それと一緒に切なさを飲み込んで


  この想いなど全て燃え尽きてしまえばいい
  その灰を 海に撒いてあげるから。


 「嫌いよ。アンタなんて ダイッキライ。」

  吐き出した言葉すら 子供が喧嘩した友達にでも吐きかける言葉かのように稚拙で。
  嫌だと 叫びたくなって。

 「何で?」
 「…アンタは」

  質問に答える気がないのを察しながら ギンは微笑んだまま「ん?」と首を軽く傾げてみせた。

 「アンタは あたしのことが嫌い?」

  畳の目が 足に食い込むような感触を覚えた。
  嫌いと言われたらどうしよう なんて 矛盾した想いの槍が心臓を貫いているくせに その槍を抜くどころか奥深く深くへと押し込めようとしている。
  一体何をやっているんだろうか
  一体何がやりたいのだろうか
  そう考えた瞬間に 己の繕っていた表情が崩れたのが分かった。

  ねぇ 痛いよ

  そう訴えてしまった。

 「嫌い」

  ひゅ と 喉が乾いた音を立てた。
  何か考えないと
  何か 返す言葉を考えないと。
  そう一瞬の内に乱菊の脳みそがパニックに陥ったが ギンはにこりと笑って素早く言葉を繋げた。



 「なんて言うたら どうする?」


  意地悪だ
  忘れてた
  コイツは 意地が悪いんだ

  かぁっと素早く頬が紅潮した乱菊を見て ギンは少し満足そうに微笑んだ。

  畜生 畜生 畜生 騙された
  ひ っ か け ら れ た 。
  悔しい 悔しい 悔しい 悔しい

 「嫌いなわけないやん。」

  けろりと言われた台詞に また乱菊は耳を紅くした。

  自分が上っ面で嫌いな奴と連む時は ソレを利用しようとしている時だけだとしっかりと自覚していた。
  大体 乱菊と連んでもどう利用しろと言うのだ。
  窓から覗く月に目をやり まるで独り言かのようにもう一度くり返した。

 「嫌いな わけないやん。」
 「好きでもないけれど。」

  返された台詞に驚いて乱菊に視線を戻すと ふてくされたような顔をして彼女は言葉を続けた。
 「でしょう?」

  否定をしない
  否定を出来ない自分に 流石に嫌気が差した。

  子供のようにふてくされた顔をする君の頬にすら 触れられない自分に。

 「…ああ 喉乾いた」

  乾いて掠れた声に落ちる黒い沈黙に 殆ど同時に二人は目を瞑った。

  消せるわけがない想い
  伝えることすら出来なくて
  壊されるのに怯えていて

  ああ 例えばそれがゲームであったかのように
  笑いながらリセットボタンでも押せればいいさ

  まっしろに
  まっさらに

  何もかもが 消えてしまえばいいんだ。

  この想いなど全て凍ってしまえばいい
  解ける前に 海に沈めてあげるのに。