「副隊長 プレゼントです。」
 ぽんと 唐突に手の平に握り締めさせられたそれを 雛森はきょとんとした顔で覗き込んだ。

 手の中にあるのは 薄荷飴。
「え?」

 なぁにコレ と言う間もなく その隊員は別の人に飴を渡しに走り去っていった。
 後から聞いた話 何故か大量に薄荷飴が余り それを仕方無しに色々な人に配りまくっていたらしい。

「薄荷 食べれないのになぁ…。」

 ぽそりと一人呟いた。
 一番隊から順番に配りに行っているんだって と 隊員達のお喋りが耳に入った。
 この調子なら 十番隊までは行かないで済むかもしれないと その声の主達は喋っている。


 仕事も一段落ついたトコだし 丁度いいや とその十番隊へ足を運んだ。



「お邪魔しま〜す。」
 そろりと 十番隊集処の扉を開けて顔をひょこりと出した。
「あ お久しぶりです雛森副隊長!」
 数人の隊員の明るい声が重なり 雛森はそちらを向いてにこりと笑ってみせた。
「あのね 日番谷く…ひ 日番谷隊長 何処に居るか知らない?」
 慌てた訂正に クスクスと何処からともなく笑い声が漏れてきて かぁと雛森は頬を赤く染めた。


「多分 隊長室に籠もってますよ。」
 隊員がそう言ったとたんに 雛森の後ろから何処からともなく来た松本の声が続いた。
「外の空気でも吸わせてやって頂戴 結構長いのよ籠もってから。」


「あ はい 解りました。」


 お邪魔しました とぺこりと頭を下げてから 雛森は言われた通り隊長室へと足を運んだ。




「日番谷く〜ん?」
 ガラガラと扉を開けると ひたすらに書類に向かう彼をすぐに見つけた。

「…雛森か。」
 日番谷は返事を返しながらも 書類から目を離さずに手を動かし続けた。
「うん。…お仕事 大変みたいだね?お邪魔 かな?」
「いや 別に。」

 積み上げられた書類は 手伝いたくても手伝えないようなものばかりで。退散しようかな と思ってからやっと当初の目的を思い出して 飴を取り出した。

「日番谷君 薄荷飴大丈夫だったよね?」
「おう。」
「要る?」
「ああ サンキュ。」

 そう返事を返したものの 日番谷は手は出さずに書類に目を向けたまま口を開けた。


 入れろ と言っている合図。


 かさかさと 袋をとって 飴を取り出し日番谷の口に投げ込む。


 …予定だったけれども 予想以上にべとべとしていて 手から離れなかった。
「あ あれ?」
 それに手間取っているのも気づかずに 日番谷は口をぱくんと閉じた。



 指先に 温かい感触。



「ーっ………!」
 かぁっ と全身が熱くなるのを感じて 慌てて指を引っ込めた。


 どう し よう
 指先が ジンジン す る。


 日番谷はそれに気づくこともなく ころころと飴をなめながら書類をこなしてゆく。

 少したってからやっと違和感に気づき 雛森を見上げた。


「…雛森?」

「なっ なんでもないっ!そ そうだ 日番谷君 外の空気吸いに行こうよ!籠もって長いんでしょっ?!」

 慌てて言葉を紡ぐ雛森に首を傾げつつも その誘いに乗り そうだなと呟いて日番谷は席を立った。

 他愛のない話をと 一生懸命話し続ける雛森にを見ながら 日番谷は何かあったのか 何か俺はやったか とぐるぐる考え続ける羽目になった。






些細な 事の 筈 なの に。

どくん どくん どくん どくん

目の前が真っ白になりそう。
耳が熱を持ってゆくのが解るの。

どくん どくん どくん どくん



貴方の唇が触れた指先が 熱い。












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