窓から入り込む日差しを感じ 日番谷は眉を顰めた。
 面倒臭そうに細く目を開けてのろのろと体を起こした後 ぐっと背を伸ばし一度欠伸をして それから酷く癖のついた髪の毛をぐしゃぐしゃとかいた。

 荒く適当に顔を洗い 簡易な食事をとり 適当に半幅撫でつけるだけの寝癖直しをして 死覇装を身に纏い定例集会に向かう為に扉を開いた。
 ここ数週間殆ど寝ていないのに、何故わざわざ朝早くからあんな眠いだけの報告を聞かされなければならないのだろうか。考えただけでも気が重くなる。

 それでも足を運ぶのは この一言を聞く為だ。

 わざと廊下をゆっくりと歩いた。
 ゆっくり と。



「あ おはよ日番谷君っ!」
 いつも通り そう声をかけられて振り返る。
 そう この言葉の為だけ。

「オマエ この時間で間に合うのかよ?」
 口の端をつり上げて言うと むぅと彼女は頬を膨らませた。
「な ひ 日番谷君だってこの時間じゃ間に合わないでしょっ!」
 ぴょこん ぴょこんとはねる寝癖を手でなでつけながら 尤もな反論をした。

「俺は重役出勤。」
「うっ…い いいもん どっちにしたって間に合わないし!」
 拗ねたのか諦めたのか のろのろと歩き出す雛森に おいおい と苦笑しながら日番谷は横に並んで歩いた。

 と

 ぴたり と雛森の足が止まった。


「…?どうした 雛森。」
「…ひ…日番谷 君…。」

 心底驚いた表情で じっと日番谷を見つめる。



「のび た。」



 唐突な台詞に 一瞬反応が遅れ その後に眠気の一切が吹っ飛んだ。

「…は?」
「伸びたよ 身長っ!」
 日番谷の眉間の皺が深くなる。

 中指と親指で円を作り 雛森の額までもってゆくと 彼女はきょとんとした顔でその動きを目で追った。


 ぱちんっ!


「いったーいっ!な 何するのよ日番谷君っ!」
「阿呆 嫌味か!」
「ち ちがうってば もう!」
 日番谷の渾身のデコピンを喰らった額をさすりながら 雛森は口を尖らした。

「ちょっと前まではここだったのに。」
 そう言いながら 鎖骨の辺りで掌を下にし 高さを示した。次に日番谷の身長と合わせて自分のおでこのあたりに掌をもっていった。

「今 ここだよっ?!」
 自分の額にある掌を見ながら 再び驚く。

「オマエが縮んだんじゃねぇの?」
「ちがうってばっ!」

 抜かされるのも時間の問題かぁ と寂しげに呟く。段々と弟扱いも厳しくなってきたのだろう。



 それでも その伸びた身長も対して意味が無い。
 日番谷にとっての欲しい背は 彼女を抱きしめられる高さなのだから。

 キミを抱きしめられない身長に何の意味がある?

 いくら大きくなったとしても お前より高くなければ意味がないんだ。



「そのうち 完膚無きまでに完全勝利してやっから。」
 口の端をつりあげて 宣言をした。
 必ず。

「楽しみにしてるねっ!」
 にこ と雛森は屈託無く笑った。


 いつかキミを抱きしめられるようになったら

 伝えよう

 きっと。



 ゴーン と一度鐘が鳴る。

 定例集会終了の合図。

「「あ。」」

 どうやら 後でお叱りは必至のようだ。














捧 月刊ヒモモ様改訂品。