真っ直ぐでありたい と 願っている。
 真っ直ぐでありたい。
 道が折れ曲がっているからこそ
 真っ直ぐで ありたい。

 鮮血のシャワーを浴びて 軽く目を瞑ると瞼にどろりとしたものがかかった。
 うっすらと目を開けると 其れが上睫を伝って 零れ落ちて目の下からつぅと線をひきはじめた。

 君の隣で
 何にも屈さず
 真っ直ぐでありたい。

 先にあるものが 屍の山であっても 血の海であっても。
 真っ直ぐ
 真っ直ぐ
 進みたい。

「血が 泣いてる」

 目をぱっちりと開いて 血が降ってくる方向をじっと見ていた雛森が唐突に口をあけた。
 見たくないと目を反らしたい筈なのに 彼女はじっとそれを見ていた。

−あたしの 咎だから。
−あたしの 咎は あたしが 背負わないと

 以前の言葉がふと脳裏を過ぎった。

「血が 泣いてる。」
 もう一度くり返した雛森に 苦笑して見せた。

「何言ってンだよお前」
「血がね 泣いてるの。」

 語尾に「ね」と「の」が付いただけじゃねぇか と 呆れた顔をしてみせたら 雛森は首を傾げて困った顔をした。

「血が…泣いてるんだもん。」
「…変なヤツ。」

 くっと喉を鳴らすと あははと乾いた笑いを返された。

 今 彼女の心に突き刺さっているナイフは何本なのだろうか。
 今 彼女の心にある刀傷はどのくらいなのだろうか。

「…まぁ 言い得て妙だな」



 俺達が歩いているのは 獣道だ。



 人々が傷付きながら踏み分けていったこの獣道を 俺達は歩いている。
 傷付きながら。

 だからこそ俺は せめても君の一歩前で歩んで
 草木を踏み分けて 君のための獣道を造りたい。
 ほんの少しでも 君が傷付かないで済むように
 ほんの少しでも 君が進みやすいように。



 地位の高さは己の足下の屍を積み上げた高さだ と 云ったのは誰だったろうか。



「…帰るか。」

 カチャリと音を鳴らして刀を鞘に仕舞った。

「…うん。」

 のろりと 雛森が立ち上がった。少し伏せた顔の頬に光ったのは血ではないだろう。


「……」

 居たたまれなくなって少しだけ眉を顰めた。

 かける言葉も見付けないうちに口を開くと 不思議と言葉がぽろりと出てきた。





「寄り道でも すっか。」





 ぱっと勢いよく顔を上げた後に やっと彼女は笑った。
 お風呂はいってからいいなぁ なんて戯けながら。














捧 蠍様
不同の時」様1000打記念及び駅伝応援小説。