泣ける時に、泣けばいい。
泣けない太陽
未だ朝焼け前の空を演習場の屋根の上で見上げると、不思議な気分になった。
少しづつだが、空が白け初めているのを感じる。
毎朝これを感じるのがいつの間にか習慣になっていることに年寄り臭さを感じて苦笑した。
ふと、目下に揺れるお団子頭を発見して、日番谷は屋根から身を乗り出した。
「ひな……。」
もり、と続けようとした言葉を切って、日番谷はがしがしと頭を掻いて、溜息交じりに呟いた。
「…莫迦桃。」
何かを抱えている彼女の肩越しに見えた頬は、涙で濡れていた。
人前で泣けない太陽
大丈夫だから、大丈夫だから。
怖がらないでよ、ねぇ。
お願いだよ、泣けない太陽。
「雛森。」
名を呼ぶと、雛森は驚いて勢い良く振り返った。
すとんと日番谷は隣に降り立って、雛森の腕の中を見た。
其処に居たのは、一匹の猫だった。
(…死んでる。)
確実に血の通っていない其れを大事そうに抱えながら、雛森は左手で涙を拭った。
「びっくりしたぁー、なんだ、日番谷君かぁ!」
明らかに無理をしているその台詞に、日番谷は眉尻を下げた。
雛森の性格は知っているつもりだった。だから、彼女がどんな気持ちでその冷たくなった屍を抱えていたのかも、解っているつもりだった。
そっと、日番谷は踵を上げた。
抱きしめるためには、足りない分の身長を補うために。
「ひつが」
「泣け。」
雛森の台詞を遮って、日番谷は強い語気で言葉を発した。
「…泣いて、泣いて、泣いて。」
少しだけ腕に力を込めると、雛森はその日番谷の腕を軽く掴んだ。
「そしたら、笑え。」
零れてきた嗚咽も、聞こえないふりをした。
もし、もし。
人前で泣けないと言うならば
一人じゃないと泣けないと言うならば
ボクは雨雲になろう。
君を覆い隠してあげるよ
君から一番近い場所で。
だから、ねぇ、泣けない太陽。
一人で泣かないで。
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