彼を乗せた飛行機が、この家の上空を過ぎるのが22時40分頃。
それまで一階で過ごしていようと思って、音が通り過ぎるのを待った。予定通りのフライトだ。
ほっと胸を撫で下ろすと、雛森は二階の自室へと足を運んだ。
彼と出会ったのは何年前だろうか。きっかけは席が隣りになったという、少女漫画チックでもない普通の始まりだ。
厭がおうでも目を引く銀髪の持ち主の彼の隣になってしまった時、酷く怯えた事が記憶にある。
どことなく不良臭くて、自分とは相容れないものだと思っていた。
それがいつの間にか惹かれていて、そしてやっと自分の気持ちに気付けた…のに。
はぁっ、と深く雛森は溜息を付いた。何という気の重い年越しだろう。
結局、社長息子の彼は親に引っ張られてアメリカへ向かう事になった。そう、今まさに日本を離れてゆこうとしているのだ。
思いを伝える事も出来ずに離れてゆく。
携帯は通じるから、メールも出来る。でも、メール無精の彼からメールが返ってくるのは5通に一度ぐらいだ。
そもそも、返ってこないメールを送るのには物凄い勇気がいる。もしかして、嫌われているんじゃないかという不安が常につきまとう。
更に学校で会えないのに、話題があるわけもない。そんな中でメールを5通も送る勇気を、彼女は持ち合わせてはいなかった。
(日番谷君の莫迦)
涙がにじむ。
ヘッドフォンで大音量でR&Bでもかけて、布団に潜って泣きながら不貞寝しよう。そう心に決めて扉を開いた。
ぶわり、と冷たい空気に当たる。思わず寒くて身震いする。
窓開けっ放しだったのかしら、と考えて、反射的に閉じてしまった目を開いた。
其処に、居るはずの無い人の姿があった。
「お迎えが遅れたな、お待たせ、お姫様。」
凍えるかと思ったじゃねぇか、と彼は呟いた。手はかじかんで、耳は千切れそうな程冷えている。
当たり前だ。航空からの15km近く、自分の足で走っていたのだから。
「なん、で。」
混乱した頭で、振り絞るようにして雛森は尋ねた。
「お前が居なきゃ、年が越せないんだよ。」
そう言って、彼はにっと笑った。
久しぶりに見る彼の不器用な笑顔は、とても温かった。
「初詣、行こうぜ。それから、時間潰して、初日の出見に行こう。」
雛森は差しのばされた手をぎゅっと握って、零れてきそうな涙を拭いた。
「うんっ!」
一生、一緒に居られますように。
癖のある字の隣に、可愛らしくスマイルの描かれた絵馬が一つ、神社に飾られた。
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::後書::
大晦日に雑記で殴り書きした作品。
これも珍しく題名から思いつきました。
超青春モードヒツだな…!