146.冬
※現代高校生パラレル
ごめんね。そう苦笑する先生の顔が浮かんだ。
僕には、奥さんも子供も居るから。
解っていたけど。解っていたけど。涙は止まらなかった。
始めから無理な恋だとは知っていた。傍らに居させて欲しかった。ただ、それだけだった。
ありがとう。いい子だね。頷いたあたしの頭を優しく撫でた大きい掌が、愛おしくて仕方なかった。
「あーあ。」
誰も居ない屋上にいきなり声が響いて、びくっと背中が仰け反った。
「ぶっさいく。」
振り返った其処に居たのは、煙草を指に挟んだ彼だった。
煙草の煙に過剰反応する肺のせいで咽せ込んだ。
ああ悪いと云って彼は煙草を指先で消した。
ごしっと涙を擦った。涙は咽せたせいだと思いたかった。
ふと、彼の表情が歪む。
見たことのない切なげな表情に、思わずきょとんとする。
「明日。十時に駅で。」
「へ?」
一体何の事か解らずに素っ頓狂な声をあげた。
彼は既にこちらに背をむけて、非常階段の扉へと向かっていた。
ドアノブに手をかけてから彼が一瞬留まった。
「失恋記念に、何か奢ってやるから。…来いよ。」
そんな言葉をのこして、彼は扉の向こう側へ消えた。
ばたん。
扉が思い音をたてて閉まった。
冬の屋上に、勢い良く風が吹き込んだ。
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147.どっちにする?
「どっちにする?」
その台詞と共に、笑顔で差し出された「それ」に彼女がどれだけ怒っているのかを身にしみて感じた。
いやな汗が出てくる。もう目の前にあるだけでくらくらしてくる。
西洋風の「ぱふぇ」と名前のついたアレだ。
片方は目に痛いほどの鮮やかな苺色で、もう一つはチョコレートを使っていて、強烈な甘い臭いを放っている。
彼女の笑顔が、重い。
残された道はただ一つ。
ひたすら、彼女に謝る事だけだった。
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148.親子
当然のように、二人に親は居なかった。
それを特別どうこう思ったことはなかった。みんなそうだ。
幸い、「おばば」と呼ばれる人がいた。いつも子供達は其処で食事を取ったりする。
彼女と俺も、其処で育った。
とても優しい人だった。現世で、一人息子の家族を放火で無くしたらしい。
おばば、と呼ばれるのをとても喜ぶ人だった。
「おばば、元気かなあ。」
ふと、彼女がそう口にした。
「…今度、帰るか。」
そう呟いて、自分の帰る場所がある事をしみじみと感じた。
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149.兄弟
「お兄ちゃんとかさ、欲しかった?」
唐突な質問に、日番谷はきょとんとした。
何を言い出すのかと思えば。彼女の突拍子の無さにはいつまで経ってもついていけないと、日番谷はかすかに肩を落とした。
「…別に。」
「えー?」
「…何なんだよ、いきなり。」
少し不服気にそういうと、雛森はにっこりと笑って言葉を返した。
「いや、子供何人ぐらいがいいかなあって。」
日番谷が墨汁を倒して大洪水が起きる、三秒前の話。
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150.姉妹
盛大に零された墨汁を半紙に吸い込ませながら、日番谷はぽそりと呟いた。
「…お、お前はどうなんだよ。」
日番谷が吸い込ませた部分の後を追うように濡れた雑巾で拭いていっていた雛森は、少し目を丸くして何が?と返した。
「…妹とか、欲しかった?」
雛森は真っ赤になっている日番谷の頬に疑問をもちながらも、素直にその質問の答えを探した。
「そうだなあ、やっぱり欲しかったかな。」
「…お前みたいな奴がもう一人居るのはゴメンだけどな。」
ぽそりと呟いた日番谷に、何ようそれと頬を膨らました。
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