「狡いね、日番谷君。」

 笑う彼女が崩れてゆく。

「そうやって、また、逃げるんだね。」

 彼女の声は笑っている。

「そうやって、また、あたしから目を逸らすんだね。」

 違う。叫ぼうとしても声が出ない。

「ばいばい。」

 精一杯伸ばした手は届かない。




 勢い良く仰け反った反動で身体が起きた。
 汗が噴き出すように流れている。
 世界がぐるぐると回っているような錯覚を起こした。

 畜生と唇を噛む。

 嗚咽を飲み込むと、変わりに嘔吐感が戻ってきた。

 狡いね。
 夢の彼女の声が響く。
 夢の彼女の笑顔が巡る。

(疲れた)

 頭が上手く働かない。手に力が入らない。胃がむかつく。

(自分を責めるのも、誰かを責めるのも)

 随分昔に枯れ果てたと思っていた涙がにじむ。

(もう、疲れた)

 助けられなかったのは俺のせいだとか
 アイツだけは許せないとか
 もう、幾千と考えただろうか。幾千責めただろうか。

「もう、ヤだよ」

 頭がぼやぁっとする。
 流れてくれればいいのに、滲んだ涙は何故か睫にしがみついている。

(何だよ、ばいばいって。)

 夢の彼女に毒づく。
 やめてくれ、あの人の姿でそんな事を言わないでくれ。
 混沌に沈み行く感触。






「最悪だ」







 絞り出した声は震えていた。













::後書::

何か色々あって、管理人が混沌の境地に立たされていた時に
吐きそうになりながらネタ書いた気がします。(え)
いやー…しかし、カオス精神で描いた割に
見返してみるとなかなかイイフレーズじゃないかい。(ニヤリ)