いつも一緒にいた。
あたしはギンが居なければ生きてなかった。そういう存在。
多分 流魂街出身の 特に数字が大きい地区に居た人間にしか解らない関係。
「乱ってさ あの市丸と付き合ってんの?」
学院に入って数ヶ月経ち 皆がなれてきた頃に友達から急に問われ 乱菊はきょとんとした。
恋愛対象などに 彼を一度だって入れたことがあるだろうか?
「まさか。違うって。」
「でも 仲良いよね。」
乱菊自身もだが 女の子はこういう話が好きよね と再確認させられる。
元々学院に入るまで同い年の女子など片手に入る程しか出会っていなかったのだが…。
「幼馴染?」
そう問われた瞬間 乱菊の頭は停止した。
違う。
そう全身が否定しているのに 他の言葉が思いつかなかった。
「……うん。」
一応そう返事は返したものの 乱菊の頭は混乱状態だった。
ギンとの関係を 「幼馴染」なんて言葉で括られたくない。でも だったら…何?この関係は?
言葉に出来ないという事の不安に襲われた。
そして 結局乱菊は直接ギンに問う事に決めたのだ。
「ボクと乱菊との関係?」
ギンは呆れたように鸚鵡返しに聞いた。
「そう。」
強い乱菊の返しの言葉に ギンは困ったようにぽりぽりと頭を掻いた。
「…せやなぁ…幼馴染とか 親友とかちゃうん?」
期待していたものと違った淡白な返答に 乱菊は肩を軽く落とした。
「…そっか。」
そうか。そうなのだ。そう やけに納得している自分が居た。
(アタシだけ一方的に ただ思っていただけなんだ。)
ズキンと僅かに胸が痛んだ。
何という言葉を望んでいたのだろうか?そう改めて自分に問いてみても 明確な返答が得られるわけでもないのだが そうせずには居られなかった。
乱菊にとっては「居なければ自分が死んでいた」という存在でも
ギンにとっては「居ても居なくても死ななかった」存在なのだ。
価値の重さがちがう。
「………。」
ぐるぐるとエンドレスで一人思考にふける乱菊を見ながら ギンは不思議そうな顔をしたが それもつかの間で 二ッと何時もどおりの不敵な笑みを浮かべた。
「乱菊。ちょっとこっち来い。」
「…何よ?」
「ええから ええから。」
ニコニコと笑いながら手招きするギンに近づいて良い事があった記憶は乱菊の中には無かったが それでもおずおずと近づいていった。
ある程度の距離まで近づくと ぐいとギンが唐突に乱菊の腕を引っ張った。
「わ?!」
当然の如く 唐突な出来事に乱菊は反応できずに足場を崩し ギンの方へ倒れこんだ。
ちゅ
頬に触れた 優しい感触。
「−−−−−−−−−−−−?!!!」
いきなりの事に 乱菊は頬を抑えてぱくぱくと金魚のように口を開閉した。
「ボクは」
ギンは何時もどおりに飄々とした表情で言葉を続けた。
「幼馴染とか 親友とかって思ってるコには こんな事せぇへんけどな。」
「…え。」
その言葉の意味を理解しきれず 乱菊は暫く固まっていたが 徐々に徐々に表情が溶けていった。
何でギンは何時だってアタシの求める言葉をさらりと口にするのだろう。
それは乱菊にとって 最も不思議なことで幸せなことだった。
「………っ………ギン 大スキっ!」
乱菊が飛びつくようにして抱きしめると ギンはきょとんとした顔をした。
「へ?あ う うん?」
(…ひっぱたかれるかと思ってた。)
そんな事を考えながらも 滅多にないこの状況にギンは満足そうに微笑んだ。
幸せ。
恋人でもなくて 幼馴染でもない。
この関係が 幸せ。
+戻+
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::後書::
非常に珍しく甘い。
学生時代。
多分 この時代のギンさんは乱と恋人になりたいと思ってそうだけど。(笑)