ボクの 名前。

 ボクが唯一ボクの中で好きだと言える部分。
 …否、言えた部分。

 ボクの、名前。






「変な名前」

 未だ鮮明に覚えている。そう言った時の君の表情、唇の動き。
 初めて自分の名前が役割を果たした時だった。

 誰にも呼ばれることの無かった その名前。

 誰かが呼んでくれる、その時をただじっと待っていた名前が、やっとの事で顔をあげた。そんな感じだった。
 同じくらいの年のコを見かけるのはこちらに来てから初めてだったし、正直なトコロかわええコやとも思った。

 仲良う、なれるかな?

 こちらに来て初めて、そんな事を考える余裕を持った。








 酷く、嬉しかった。






 君に、出会えた事。その事自体が。








「…乱菊。」

 呼んでも返ってくる返事は無かった。

(二度と、もう二度と、君の口からボクの名を聞くことは無いんやろうか。)

 痛みを感じなくなって幾久しい胸が、ズキンと鈍く痛んだ。
 もっと鋭い痛みでこの心臓を貫いてくれればええのに。そう思う程、鈍い痛みだった。

 もう一度

 その、凛と澄んだ声で、ボクの名前を。


「ギン」


 呼びかけられた声に肩がびくと揺れそうになったのを押し留めた。
 ボクの名を呼んだのは、求めていたものと正反対の、低い、醜い声だった。

 乱菊が呼んだ名を汚されたようで、汚れきった名を更に汚されたような気がした。

 それでも、ボクは笑う。
 まるで、その醜い声がボクの名を呼ぶのを待っていたかのように。
 それでも、ボクは笑う。

「何でっしゃろ?」

 ク、と喉を鳴らしたその男に嫌悪を感じたが、それでも顔には出さなかった。

「作戦会議、ってヤツだよ。」

 今時珍しい程の悪の帝王っぷりを演じたその男に、もう一度笑ってみせた。

「左様ですか。」




 もう一度だけ、最後に呼んでくれないか。
 その凛とした声で

 穢れきった、ボクの名を。

 世界が滅ぶ前に、もう一度。








::後書::

どう頑張っても独白になります;
誰か、ギン乱のストーリーものの書き方を教えて…!