「失礼しまぁす。」

 気の抜けた台詞と、気の抜けたノックをして、返事をまたずに扉を開ける。
 そこにはいつも、呆けているのか寝ているのか解らない彼が椅子によりかかっている―…。

 はずだった。

 キョトンとした顔でこちらを見ている男は、確かに動物の耳が生えていた。
 猫耳だろうか。いや、どちらかというと、狼耳だ。

 三秒ほど沈黙がながれる。
 何も言わずに、勢い浴扉を閉める。

「ああっ、まってえな!」

 慌てた声が扉の向こう側から響いた。
 力いっぱい開かれようとする扉を、力いっぱい閉めようとする。

「おかまいなく、私はなーんにもみていません。」
「いや、ちょっと話きいてえな?」

 扉がギリギリと音をたて、破壊寸前である。
 さすがに扉を壊して弁償沙汰になるのは厭なので、乱菊は仕方無しに扉を離した。

「いやさ、五番隊の子ォにな、寒いでしょうからって貰てんけど…。貰った以上はつけなあかんかなぁと…。」

 ぽりぽりと頭を掻く彼は、酷く情けなさそうだった。
 この男はこういうときだけやけに律儀だ、と乱菊は改めて思った。

 しかし、三番隊隊長が狼耳をつけていた。こんな美味しい話を、この程度で捨てるわけにはいかない。

「やぁ〜、お似合いですよ、市丸、た・い・ちょ・うっ!素敵ですぅ〜!」

 全力でブリッコ声を出す。もはや大阪根性に近いものである。

「…乱菊、恐い…。」

 この手の発言に関しての突込みはグーで、というのもお約束である。
 ギンはほおに手を当てて、乙女すわりで言葉を返す。

「そ、そんな全力で殴らんでも…。」

 最後に小さく、およよ、と自分で言う。
 夫婦漫才と、幾度言われたことだろうか。

「あはは!気持ち悪い〜!!」

 乱菊がケラケラと腹を抱えて笑うと、ギンが少しばかり不服そうにほおを膨らます。




 永遠に続くであろう、このやり取りが




 涙が出るほど、幸せだった。













::後書::

ギャグっぽく仕上げたくて、失敗。