甘い嫉妬は誘惑の味がする。

 きっと、この間隊長が顔を顰めてにらめっこしていたあのチョコレートなんかよりもずぅっと甘いのだろう。
 一口食べたらもうおなか一杯になってしまいそうな、そんな殺人的甘さ。
 きっと、紅茶がよく合うわ。ホワイトだったら、ブラックコーヒーなんてのも視覚的に素敵かもしれない。

 甘い嫉妬が、あたしを誘う。

 こちらにおいで。
 こちらに来てしまえば楽だよ。
 さぁ

 此方ニ、オイデ。

 醜く髪を振り乱し、縋りつけとそれは言う。
 嫉妬の心に狂ってしまえ。彼を縛り付けて、あたしだけのものにしてしまえ。
 …そういう誘惑。
 それは熱を持ち、徐々に徐々にと燃え上がってゆく。甘い炎。


「いやよ。」

 命令する。わがままな子供のように。
 彼の細い目がこちらを向く。そのまま。そのまま、見つめて離さないで。
 そう

(あたし以外を、瞳に映さないで。)

 意外そうな、驚いた彼の顔。
 自分からのキスなんて何年ぶりだろうか。

 イヤよ、イヤ。


 アンタの瞳に、ほかのものが映ってるなんて、耐えられない。


「乱菊?」

 優しいハニーボイスがあたしの名前を呼ぶ。
 他のものがこの声を聞いているなんて耐えれない。

「莫迦ね。」

 そう、貴方を莫迦にしていいのもあたしだけ。
 だって、貴方の莫迦なところを知ってるのはあたしだけなんだから。

「……?」


 イヤ、お願い、そっちを見ないで。
 こっちだけを見てよ、ねえ。

 幼稚な願いに涙が溢れた。
 あたし、莫迦みたい。いや、莫迦だわ。
 そう思っても願いはとまらない。涙も止らない。
 随分昔に、彼を自分のものにするのは諦めたはずなのに。

 彼は、驚いた顔の後に笑った。ありえない。何て男。
 嗚呼、やっぱり慣れないことはするもんじゃないと思う。これは彼の専売特許なのだ。
 あたしはやっぱり、束縛することを望むより、束縛されることを望む方が性にあっているのだ。


「君のモンにしてくれるん?」


 唐突な返答にきょとんとする。
 一体何をいいだすのだろうか、この男は。


「僕のモンになってくれるん?」

 返事を返す声が掠れた。

「何を今更?」

 にやり、と彼は笑った。
 交渉成立とでもいわんばかりの顔。

 嗚呼、ダメだ、やっぱり。









 あたしは、こいつから逃げられやしないのだ。








 嗚呼
 長い長い夜が更けてゆく。









::後書::

ギン乱はイカレててなんぼだと思います…(酷)
甘いのも大好きですけど…!(笑)