「ねえ、あたしが居なくなったらどうする?」

 何時ものように唐突な、その奥深くを問う質問にボクは顔を上げた。
 春は人を陽気にさせ、そして狂わせる。
 ボクはじっと彼女の目を見たが、きっと彼女からはそんなことは解らなかっただろう。

「探す、やろな」

 淡白な答えであった。
 無くせば探す。それは当然のように。

 例えば、自分のもの以外のものが無くなったならば探さない者もいるだろう。
 けれども、自分のものが無くなったときに探さない者がいるだろうか。居るとすれば、それはただの莫迦だ。

「それでも見つからなかったら?」

 彼女は虚ろ気な目でそう聞いた。頬が紅潮しているところを見ると、結構な量を引っ掛けてきたのだろう。

「それでも探す。」

 自分のものは手放さない。それが持論だ。

「それでも見つからなかったら?」

 水掛け論だ。そう思いながらもボクは、返答を返した。
 いつか諦めるという返答が返ってくることを期待しているのだろうか。

「それでも探す。」

 その期待を裏切るように、ボクははっきりとそう返した。

「それでも…」

 言いかける彼女の唇を塞いだ。
 彼女は虚ろな目のまま、ボクの舌を受け入れた。
 乾いた彼女の目から、何処から湧いてきたのか小さな滴が零れた。
 それは、細く蛇行した線を描きながら彼女の頬をゆっくりと伝っていった。

 長い口付けを終え唇を離した時も、その涙は唇の位置にすら達していなかった。

「答えて。」

 彼女の、鋭いようで縋るような声が部屋に響いた。
 何に?そう問いかける前に、答えは返ってきた。


「見つけたら、どうするの?」


 なかなか上手く核心を突いた台詞だった。
 そこで初めて、ボクは言葉に詰まった。彼女の背中を見つけたところを想像する。街中、人ごみの中、君のブロンド色の髪を見つけたとき。

 ボクは、どうするだろうか。





 きっと、ボクは











::後書::

きっと…何なんだろう。(無責任な…)
なんだか現代っぽくなってしまいました;;