喩えたのは 誰だったか。
 不満げに背にかかる刀の柄に手を伸ばした。
 しゃらん と軽い音がして 刀は鞘から抜かれる。

「何で俺が こんな雑魚に。」

 ぼそりと小さくつぶやき 目の前の虚に一瞥をくれた。

「返して貰おうか 奴等の魂。」

『なんだ アレか?お前と同じ 黒い服のやつらか?ギケケ あれは美味か…』

 戯れ言を聞き入れる気など毛頭無かった。
 刀越しに感じる 重い感触に思わず眉をひそめた。
 何が起こったのかも分からないまま 虚は特有の耳障りな悲鳴を耳にこびりつけさせるのがまた憎らしくて 日番谷は小さく舌打ちをした。。

 地獄の門が開かれ いつも通りあの手が現れる。
 虚の悲鳴はより一層酷くなり そしてふと消える。

「やり直す来世はねぇぜ クソ野郎。」

 その姿は 成る程 白い炎と喩えるに相応しい。
 羽織が靡き 銀髪がキラキラと輝く。
 血の色にも染まらず
 憎しみにも染まらず

 ただ 白でもない。


 銀だ。
 けれども 炎の色は白なのだ。


「雛森。」
 呼びかけられ はっとして顔をあげる。
「終わった。」
「…うん。」
「もう 大丈夫だから。」
「……うん。」

「だから 泣くなよ。」

 彼の指が頬にあたる。
 その温もりに 枯れかけていた涙が 再び溢れ出す。



「お前のせいじゃない。」

 ズキン と傷を負った肩が痛む。

「お前は やれるだけやった。」

 ぐらり と視界が揺れる。

「大丈夫だから。もう終わったから。アイツに喰われた魂は…解放 されたから。」

「っ…!」

 それでも涙は止まらない。
 傷の痛みよりも 嘔吐感よりも 何よりも

 この胸の痛みが 一番 辛い。




 ぎゅ と優しい音がする程度に。
「おやすみ。」

 その言葉だけが脳裏に残りながら 夢に落ちる。
 温かさが 胸に溢れ込む。

 人を焦がし
 人を燃やし
 人を 暖める。
 嗚呼 私だけの 白い炎。


「あり…が と…ぅ」

 掠れた声で 一言だけ言った。



 その漆黒の髪を撫でる。
 キミに降り注ぐ火の粉は全て振り払おう。
 もしも俺から火の粉が出て キミに降り注ぐならば
 俺はお前の側を離れよう。


 何でもする。
 何でも出来る。
 だから
 だから
 泣かないで。




 白い炎は 唯一人 涙を堪える。



白い炎と喩えたのは誰だったか。