その足に染みこむ冷たさだけが 真実を知っている気がして。思わずその場で大の字に倒れてしまいたくなる衝動に駆られた。

 莫迦みてぇ。

 頭を振ってその思考を振り払い 一歩と足を踏み出した。

 ざくり

 ふわふわとしたモノが上からの圧力で固まって 地面と擦れる。
 足下から雪が氷に変わる時の 泣きそうな音が鳴った。







 一度現世に降りたってしまえば 霊体に 雨とか雪とかが当たる筈はない。
 だから虚討伐の時に雨とか 雪とか そういうモノが振っていると物凄く気持ちが悪い感覚に襲われる。

 触れようとしたものが 通り過ぎてゆく感覚。


 掴めない

 掴めない 何も。


 虚の血が白い雪の上に飛び散った。

 この血も 現世に生きる者には見えないのだ。血の混ざった雪で 子供達が楽しそうに雪達磨を作っている。



 ずきり

 ずきり



「隊長」

 その声にふと意識を戻し 日番谷はその声の主…松本を見上げた。
「何だ」
「…帰りましょう。」

 子供を見つめていた一人の老夫婦を魂送しながら 辛そうに言った。彼女なりにも想う事があるのだろう。そうだな と 小さく返事をして開錠をした。

 ぱきん と弾ける音がして地獄蝶が飛び立った。




 楽しそうな子供達の笑い声だけが 木霊する。




 ほんの少しだけ 泣きそうになった。



ざくり ざくり ざくり


 松本が消えた方をちらりと見てから 自分の足下に目を落とし 歩みを止める。
 もしもここでずぅっと。ずぅっと突っ立っていたら 雪は俺の身体を埋めてくれるだろうか。ここで倒れ込んで そのまま屍のように動かなければ 雪はこの汚れた身体を覆い隠してくれるだろうか。

 もしも
 例えば

 そうしたなら

 俺は


 
 日番谷君


 思わず幻聴に後ろを振り返った。ただ真っ白が続くだけの世界に 安堵と…ほんの少しの 寂しさを覚えた。
 また進方向に向き直って 自分を嘲笑うついでに 含み笑いのまま大きな溜息をついた。

 やっぱり 雪に埋もれるよりも 彼女の空気に包まれる方が気分が良いな。

 そんな独りよがりな答えを出して 少し凝った背中を伸ばすとパキパキと骨が鳴る音がした。

 小さく んー と呻いて 一歩とまた踏み出した。
 少し頬が緩んで ニヤつきそうになったのを堪えた。あの場所が一番好きなのだ。冷たいものを全て 溶かす事無く温かくしてくれる。



 彼女が おかえりと 何時も通りに首を少し傾げて笑顔を浮かべる姿を

 思い浮かべて。







 ざくり

 その音にはもう 痛みは伴ってはいなかった。