「指きりげんまん ウソついたら はりせんぼん のーますっ、指切った!」
勢い良く指を解いて それから彼女はえへへと笑った。
「約束だよ。」
俺はそれを見上げて 慣れない笑顔を返した。
「約束だ。」
それは 遠い 遠い記憶。
「………。」
真っ先に目に入った天井を数秒じっと見つめていた。
先の夢が頭から離れない。
何の約束をしたのだろうか?どうも其処だけ記憶にない。
指きりをした事だけは 鮮明に覚えているというのに。
はぁ と大きく溜息をついて上半身を上げると 体の其処此処が痛みを訴えた。
自分の包帯の巻かれた掌を見ていると序所に情けない気持ちがこみ上げてきた。
背中の包帯がじんわりと汗で湿っているのが解った。包帯の最後を止めているテープを剥がして 傷口に包帯が強く当たる事が無いように気をつけながらそれを解いていった。
雛森の意識は依然として戻っていない。
本人の元来持っている治癒能力に賭ける…というよりも これはもう本人の意思の問題だろう。
卯の花も言葉を濁してはいるが 遠まわしにそれを示唆していた。
そして 雛森の意識が途絶えてから今まで 俺の怪我の回数と度合いは悪化の一途を辿っている。
全身包帯だらけ。殆どミイラ人間状態で 一人で巻くことすらままならないので松本に手伝わせている始末だ。
情けなさに溜息が出る。
「隊長 入りますよ?」
「あぁ。」
時間丁度に毎朝毎晩隊長室にやって来る松本に さすがに申し訳なくなる。
「おはよう御座います。」
何時もどおり 救急箱を抱えてやってくる松本に背を向けて 包帯の解きの続きをした。
徐々に顕わになるその情けない切り傷をじっと見つめた。指先から肩にかけての長い傷に 腹部の火傷。背中には弾丸を打ち込まれた跡と そしてやはり切り傷。
「…無理しないで下さいよ。殆ど隊長二人分の仕事 一人で抱えてるんですから。」
「…俺だけじゃないだろう。」
三人の隊長各と 一人の副隊長の欠員。それに加え依然として四番隊に運ばれた十一番隊員は仕事の復帰を許されていない者が半数だ。
どの隊も忙殺されかけている。
「隊長が倒れたら もっと迷惑じゃないですか。」
苦笑をしながら 松本は指先で傷薬をとって 背中に塗り始めた。
「…お前も随分やつれた。」
そう言った瞬間 ぐっと突然松本は指先に力を入れた。
「……ッ?!!」
電撃のように走った痛みに目を瞬かせて松本を睨みつけた。
何も傷口の上でやる事もないだろうに。
「隊長は 自分の心配と雛森の心配だけしてればいいんです。」
口をへの字に曲げての 子供のようなお叱りに思わず吹き出した。
優しいものが流れ込んでゆくのが解る。
「……あぁ。」
そう 思い出した。
優しいその声が言った 約束の内容を。
絡めた小指が祈りに乗せた想いを。
ずぅっと ずぅっと 一緒だよ。
指きりげんまん ウソついたら はりせんぼん のーますっ、指切った!
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