中庭の方から、パン、と小気味良い音が響いた。
パン、パン、パン。しばらくのあいだ、其れは一定の間隔で響いていた。が、ふと急にそれは途絶えた。
ゆっくりと聞いていた音楽を唐突に切られたような、むずがゆい不快感を感じた。
始めは特別気にしていたわけでもないが、聞こえなくなるとなると興味をそそられるものだ。妙な好奇心に勝つことが出来ず、部屋からでて廊下の手すりから顔をだした。
しかし、中庭には人影が見当たらない。
おや、と首を傾げる。確かにここから聞こえたとおもっていたのだ。少しばかり好奇心がくすぐられたが、あいにくこのようなことにまでかまけていられるほど、時間を持っては居なかった。
仕方無い、とおもって首をすくめて、後ろ髪引かれる思いで中庭に背を向けた。
パン、とまた音が鳴った。やはりなつかしい音である。
なんだっけ。やはり頭に引っかかる。
「あっ」
声が振ってくると同時に、後ろにぱさりと音がした。
目に飛び込む、懐かしいその姿。ぱちん、と音がしたように繋がる。
次いで、ひょいと逆さまの顔が屋根から顔を出した。
「あ、日番谷君、それ取って。」
「あ、シロちゃん、それ取って。」
ずっとずっと、前の姿が重なる。
日番谷は、しゃがんで懐かしいその「紙風船」を手にとった。
幾年も前の、あの頃と同じように。
背伸びをして、彼女の手に其れを渡す。
「ありがとう」
「ありがとう」
にへら、と彼女は笑った。
そう、そうして彼女はこう言うのだ。
「本ばっかり読んでないで、一緒にあそぼうよう。」
「莫迦野郎、仕事だ。」
懐かしい光景を、垣間見た気がした。
ぷぅと頬を膨らます彼女は、進みながらも昔のままでありつづけている。
それが信じられないくらいの奇跡だと、知っている。
なんとなく、暖かい気持ちになった。
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