いつのまにか5題

配布元:花花*−バナバナ−

01.私の隣

 いつからだろう。
 あたしの視界には、何時だってその銀色がちらついていた。

 いつからだろう。
 あたしの隣には、間違う事無く貴方が居た。

 泣いた日も、怒った日も、傷付いた日も、笑った日も。
 貴方が必ず、隣に居たね。

 いつのまにか、当然になっていた。
 いつのまにか、当たり前になっていた。

 今まで気付けなくて、ごめんね。

 大好きです。




02.静かな雨音

 近づいてくるのは、静かな雨音。
 雨が降り始めた事にさっぱり気付いていなかった自分に少し驚く。
 通り雨だろうと、大体事前に関知出来る事が多いのだ。
 閉じた窓から空を覗き込むようにして見ると、空は晴れ晴れとしていた。

(狐の嫁入りだな。)

 窓に当たる雨が、本当に静かに…ともすると、気付かないで過ぎてしまいそうな程静かに音楽を奏でていた。

「きっと、綺麗なお嫁さんなんだろうね。」

 部屋に入ってきた彼女が独りそう呟いた。
 入ってきていたのは気付いていた。彼女もそれを承知で口を開いている。
 考えている事が共通していた事に微かな喜びを覚えながら、振り向かずに返答を返した。

「狐だからな。」

 ふと、雨が止んだ。



03.広い背中

 温かさを感じながら思う。
 あの背中は、あんなに大きかったろうか。

 ぎゅっと腕に力を入れる。

「足、痛むか?」

 心配そうな彼の声に首を振って応える。
 何時しか、同じようにあたしが足を怪我した時の記憶が甦る。
 頑張っておぶろうとしてくれたけど、どうやったってあたしをおぶるのには彼の背中は狭すぎた。
 笑いながら足を引きづって家に帰ったら腫れが倍ぐらいになってて、彼が物凄く悔しそうな顔をしていた事を覚えている。

(もう、あの背中じゃないんだね)

 いつの間にか、広い背中で微睡んでいた。


04.忘れた課題

「嘘。」

 さぁっと血の気が引いていくのを感じた。

(どうしよう)

 ぐるぐると担任の顔が回る。
 課題を忘れたと知ったら、あの担任にどれ程叱られるかなど目に見えている。
 春休みで流魂街に戻ったはいいが、普段寮生活なだけについ荷物を置いて出ていってしまう癖が付いているらしく、課題を丸ごと置き忘れてしまったのだ。
 後悔先に立たず。今更頭を抱えても仕方ないと、溜息混じりに教室へ向かう。

(ああ、先生休みだったらいいのに。)

 そんなワケの分からない望みをかけながらとぼとぼと歩いていると、ざわざわといつもより騒がしい声が外から聞こえてくるのが解った。
 そういえば新入生が入ったんだ。そんなことを思いながら、窓から下の中庭を見下ろすと、目立つ色が目に飛び込んできた。
 彼が、ばっと顔をあげる。

 そこに、居るはずの無い彼。

 彼が大きく息を吸い込むのが解った。

「莫迦桃!課題忘れてってどーすんだよ!」

 叫び声に乗ったかのように、一枚の桜がぺちっと雛森の額にヒットした。



05.置かれた手

「へくちゅっ!!」
「…それ、くしゃみのつもり?」

 苦笑いする日番谷をきっと睨みつけてから、雛森はぐずぐずする鼻を軽くすすった。
 未だ昼の二時だというのに、周りは夜のように真っ暗だ。
 激しい雨が降り続けている。雨止みを待ち始めてどのくらい時間が経ったろうか。
 温めようといつのまにか肩に置かれた彼の左手は、記憶にあるものと全く違っていた。

(日番谷君の莫迦、ドキドキしちゃうじゃない。)

 言える筈も無いその台詞を、雛森は心の中で呟いた。