彼女は良く、何かを尋ねる。
 これは何?どう使うの?そういう類のものだ。大体俗なものが多い。
 あの人の下に就いているせいだろう。

 答えてやると、不器用に笑った。



「…何やってるんスか。」

 思わず呆れた声で一角は彼女に声をかけた。
 そう突っ込みたくもなる。この寒い冬の真夜中に、隊舎の扉を開けてみれば縮こまっている隣の隊の副隊長が居るのだから。

「…あ。お仕事終わったんですか。」

 しかし、当の本人に気にした様子は全くなく、何時も通りにぼぅっとした口調で彼女は答えた。

「まぁ、一応ね。」
「お疲れ様です。」

 どうも、と答えようとして彼女の手の中にある真っ白い花に目が留まった。もう摘み取ってから随分時間が経っているのか、もうその花は死んでいるようだった。

「ソレ…。」

 そう呟くとネムは思い出したようにそれを両手で包み込んだ。

「何の花か教えてもらおうと思って。…もう、萎れてしまったけれど。」

 苦笑いをする彼女に、一角は暫し沈黙をした。
 一角に花について聞く者など早々居ないだろうに。
 とはいっても、出身の事もあり花にはそれなりに詳しかった。

 それにしても、本当に表情豊かになったと一角は思った。出会った当初、笑う事すらしなかったのに。

 不思議な気分に陥りながらも花に顔を近づけた。
 当然そうするとネムとの顔の距離が近づくワケなのだが、一角はそれに気付く様子もなく口を開いた。

「サクランボ」

「え」

 きょとんとするネムを余所に、一角は話を続けた。

「喰った事、あるか?」

 そう尋ねられ、少し考えてからネムは首を振った。

「果実を付けるんだ。小さいヤツをな。」

 そう云って一角はおおよその大きさを指で丸を作って表してみせた。

「俺の記憶が正しけりゃぁ、アンタの誕生日花だよ。」

 そう、何事も無いようにさらりと云われてネムは驚いた顔をした。
 死神の誕生日を覚えている者など早々居ないだろうに。

「花言葉は−…」
「いいです。」

 言いかけた一角の言葉を優しく遮って、ネムは笑った。

「調べて、みます。」

 ふわりと笑うその笑顔に何の意味があるのか酌み取りかねて、一角は少し不服そうな顔をしたがそれも直ぐに何時も通りに戻った。

「そ、スか。じゃぁ、一個だけ教えてやるよ。」

 その発言をしようと思った事は彼自身にも驚きだったが、大した恥も感じずに彼は続けた。
 ネムは少し首を傾げて不思議そうな目を一角に向けていた。


「アンタには、花が似合う。」


 褒め言葉かどうかも解らないような興味のなさげな言い方に、ネムは益々不思議そうな顔をした。
 それを後目に一角は踵を返した。

 もう萎れたサクランボの花が、風に吹かれて揺れた。







 ボクの、小さな恋人。












::後書::

わかりずらー…。
誕生花と花言葉は場所によって違うのであまり気にしないで下さい;
サクランボの花言葉が小さな恋人なんですよー…!
ごっつ解りづらい小説で申し訳無い…(汗)
角ネムムズ過ぎです…(苦笑)
とりあえず、いい加減コンテツに角ネムを増やしたかったんです(笑