夜中の修行をしていた時に彼女に出会った。
 昼間は任務で自分の修行へと充てる時間が余りないので、夏場は夜中に森に籠もって修行をすることにしている。
 ちなみに冬場は流石に寒いので道場を借りる。

 そんな、誰もいる筈もない時間に森の中で彼女に出会った。

 暫く他愛もない話をしていたが、どうも様子がおかしいと気付いたのは随分経ってからだった。
 どうにかしたいと思う反面、お前ではどうにもならないと諭す自分が居る事に気が付いた。
 幾程そうしていただろうか。流石にそろそろ戻ろうかと腰を上げたが、裾を引く手に再び座り込む羽目になった。

 その手は小刻みに震えていた。
 何か言おうと思ったが、言葉が出ない自分が怨めしかった。

「…どうしたんスか。」

 そんな、ありきたりのセリフ。
 普段端正に揃っている前髪が乱れている。
 答えは返ってこなかった。

「…ネムさん?」

 優しい言葉など出せる筈もなかった。
 もう宵も耽る時間なのだろう、空が白み始めている。

「お願いです。」

 声が今まで聞いた事が無い程震えていた。
 喜びも悲しみも映さなかった声が、初めて恐怖を映したような気がした。
 不器用な感情表現だと思う。

「お願い、だから」

 裾を掴む彼女の手に力が入ってゆくのが解った。
 徐々に、徐々に彼女の感情が産まれてゆく。

「お願いだから、傍らに、居て下さい。」

 もう少しだけ。もう少しだけ、と彼女は呪文のように呟いた。
 一体何が彼女をこうまでも怯えさせているのか解らなかったが、自分には何も出来ない事だけは明かだった。

 彼女の肩ごと抱きしめると、草の匂いがした。
 ほんの少し意外な気がしたが、落ち着く香りだった。

「気が済むまで、居てやるよ。」

 更に彼女の手に力が込められる。
 白んだ空に目を覚ましたのか、小鳥の囀りが始まった。

「だからー…。」

 だから、泣いてもいいんだと。
 そう言いたかったのに、言葉が出なかった。

 涙を受け止める自信が無かった。

 それでも言おうと、すぅと息を吸った時に彼女の手の力がふと抜けた。
 ぎょっとして腕の中の彼女に目をやると、目を瞑って定期的な呼吸をしていた。
 思わず肩の力が抜ける。
 彼女の眠りを妨げない為には、どうやら彼女が起きるまでこうやって抱きしめる形で居続けなければいけないらしい。


「ツイてねぇや。」


 眩しい朝日に目を細めながら、口を尖らして小さく呟いた。









::後書::

一角…全然脳みその中で動いてくれません…
いや、動くには動くんだけど、喋ってくれません。
ものごっつい難しいです…(涙)
でもものごっつい楽しいです!!(笑)
角ネムラヴ!!