花見は宴に変わり
 宴は…酔っ払いの 溜まり場と化す。

 これは有る意味 どうしようもない定理なのかもしれない。


「隊長ッ」
「酒臭い。」
「隊長!」
「うざったい」
「隊長?」
「まとわりつくな」
「隊長〜」
「酔い覚まして来い。」

 ただの酔っ払いと化した隊員達が寄ってくるのに適当に返事を返しながら 日番谷は酒を煽った。

「隊長ー。」

 松本が素面なのか良く分からない口調で呼んだので そちらを向くと 彼女はとある方向を指さしていた。…五番隊が固まっている処だ。

「行け。」

 満面の笑みで己の上司に命令する松本もまた あまり素面では無いらしい。はぁと深い溜息をついて見せてから 掌に霊力を集めてみせた。
 きょとんとする隊員達を見てから すぅと息を吸い込み出来る限り低い声を出した。

「一番最初に気絶させられてぇのは何奴だ?」

 一瞬空気が氷ついてから 直後どっと笑いがおこる。
 隊長最高 面白い 等と口々に言ってくる隊員達に抱きつかれ 余計酷くなったと日番谷は舌打ちをした。
 勿論本気ではないが 一人ぐらい此処で気絶させてもバレないかななどと少し思ったのは 口にはしないでおこうと日番谷は決め込んだ。

「たいちょー。行けー。向こう 雛森が誰かに抱きついてますよぉー?」

 敬語と命令の入り交じった口調に呆れながらも 横目でちらりと其処を見た。抱きつかれている男の頬が紅いのはおそらく 酒のせいだけではないだろう。

「…だから何だ」

 ぐいと 強い酒を煽ると 良酒の温かみが身体をほろりと支配した。

「隊長が嫉妬しないの 珍しいー。」

 何でぇー?と 嫌な匂いを放ちながら松本は金髪を書き上げながら身体を寄せてきた。
 べっとりとくっつくそれが暑くて振り払うと ひどーいと声高らかに松本が笑った。一瞬何処からともなく感じた殺気は気のせいにして 再び溜息混じりに酒を煽った。

 くらり くらり

−嫉妬?誰が あんな野郎に。

 ふつりふつりと 今更に松本への怒りが湧いてきた。
 すると何故だか自然と 雛森へもその矛先は向かう。その時点で自分が酔っていると自覚すべきだったのだろう。

 くらり くらり

 ムカツク ムカツク ムカツク
 別に俺は 別に…ッ…何で副官にもなって酒に酔うんだ?
 大体部下に抱きつくとか どういう了見だよ。全ての野郎共が「良い人」だと勘違いしてねェか莫迦野郎。それとも何だ−…?

 くらり くらり

 いや 何で俺があんなヤツの為に頭を悩ませなきゃいけないんだ?
 何でアイツは俺のコトなんて気にかけてもねェのに 何で俺がアイツの事気にかけてやんなきゃいけねェんだよ
 可笑しいだろう それは−…

 そんな事にむかついている自分にさらにむかついてまた悪循環で その解決法がヒトツしか無い事も日番谷は理解していた。
 酔っ払いの中途半端な理解ほど 迷惑なものは無いのだけれども。

 吹っ切れたらそれが最後で。

 ダンッ!

 勢いの良い立ち上がりに 全体がしんとした。
 一秒 二秒と続く沈黙を気にも止めずに ずかずかと雛森のもとへ進んでゆく日番谷の姿をぽかんと皆は見つめていた。

「雛森」

 ドスの効いた声に 数人がびくりと肩を震わしたのにも気が付かずに 雛森はきょとんとした顔で日番谷を見上げた。

「ひーつがやくん だぁー。」

 どぉしたのぉ?と首をかしげる雛森の顎を掴み ぐいと上に上げさせた。
 それでも雛森はきょとんとした顔で 二三度瞬きをした後に 再びへらりと笑い始めた。
 まさかと 花見をしている隊員達全員の視線がそちらに向いた途端 日番谷の足はがくんと力を失った。









 どさり。











「…日番谷君?重いよぅ…。」

 そう呟いて 雛森は身を捩って日番谷の下から抜け出そうとしたが それは上手くいかなかった。

「日番谷君?」

 問い掛けても返ってくる返事は規則正しい寝息だけだった。

「ちょっ ひ 日番谷くんっ?!起きて 起きてってばぁっ!」

 流石に酔いも醒めてきて焦り始めた雛森を 誰も助けようとせずに 松本に至ってはそれを肴に再び酒に口を付け始めた。

「雛森副たいちょぉー。毛布持ってきましょぉかぁ?」
「やだ それより助けてってば ねぇ!」




「酒ってのは 怖いねぇ」




 のほほんと松本が発した台詞に 周りの隊員達がのほほんと頷いた。


















::後書::


…あまりにも酷すぎて何もいえません。orz
かなり古いお蔵だし気味の品。訂正の手を加える気も起きないほど酷いです;