「あ」
思わずそちらに目をやってしまってから 雛森は気恥ずかしくなってすぐに目線を逸らした。
くすくすと隣の女隊員が笑いだしたので 何よと膨れっつらをしてみせると いえいえと更に笑った。
「良いンですよ副隊長 別にっ」
「へっ?!な 何がっ?!」
にーっと意地悪そうに笑うと 隊員は遠くの日番谷の方を 書類で両手が埋まっている為に顎で差した。
「見てたんでしょう?日番谷隊長。」
「なっ えっ べ 別にっ!」
慌てた否定も軽く無視をして隊員はそれにしても と続けた。
「凄いですよねぇ 最年少隊長昇格かぁ」
「…うん…」
少しくらくなったその返事に隊員は不思議そうに雛森を見下ろした。
「遠い なぁ」
「…………。」
妙な沈黙に 雛森は訝しげに隊員を見上げると 彼女はぽかんとした顔をして突っ立っていた。
「な なぁに?あたし何か変な事言った?」
「…愛されてますねェ 隊長。」
「へっ?!えっ な なんでそうなるのっ?!」
「いやぁ 相思相愛というか 羨ましい…。」
ちょっと待ってよ という静止の声も耳に入らないとばかりに隊員は一人納得してうんうんと何度か頷いた。
「分かり易すぎですよ 副隊長。」
「えっ う あ」
反論の余地も与えられない断定の台詞に雛森はなんとも言い難い良くわからない言葉を数個発した後に 観念したように顔を耳まで真っ赤にして俯いた。
「ひ 日番谷君にはナイショだよ…?」
「え?あ あぁ はい…?」
あからさまに「何が?」という顔をしていた隊員の表情の意味にも気付かずに 雛森は早く行こうと慌ててその場を立ち去った。
その背中を ふと日番谷が見付けていた。
とてとてと歩いては時たま転けそうになって隊員に心配されているその背中を見て ふっと微笑む彼に隣で男の隊員がぷっと噴き出した。
「隊長 本当好きですねェ 雛森副隊長の事。」
くくっと笑って肩を揺らす隊員にを ぎろりと日番谷は睨みつけた。
耳まで紅くなって睨みつけたとて 全く効果など無い事は百も承知で。
「何言ってンだよ 莫迦」
「いや 今更隠されても。」
すぱんと間髪入れずに返された言葉に 日番谷はう゛ と言葉をつまらせて目を泳がした。
良い言い訳も見つからずに わざとらしく大きく溜息をついてから人差し指を立てて自分の唇にもっていき定例のポーズをして日番谷は小さく呟いた。
「…秘密だぞ。」
きょとんとした顔をした隊員を残して 赤い頬を隠すかのようにさっとその場から日番谷は姿を消した。
「まさかとは思うけどさぁ。」
お弁当をほおばりながら 十番隊隊員はぼそりと呟いた。
周りの五番・十番隊隊員達が首を傾げて続きを促したので 彼はごくんと卵焼きを飲み込んでから言葉を発した。
「あの二人って 相思相愛なのに気付いてないの?」
「「「うん。」」」
即答に返って来た台詞に ああ やっぱりと納得したように彼は何度か頷いた。
「見てて可愛いね。」
「ホントにね。」
「つか楽しいよな。」
「何十年後なんだろうなァ あの二人がくっつくのは…!」
げらげらと笑いながら 賭けを部下が始めていることを 本人達は微塵も知らない。