悲しかったのだろうか
悔しかったのだろうか。
正直 そんなトコはよく 覚えていない。
多分悲しくて悔しくて 仕方なかったんだろう。
−守れなかった
−こんなもの 一つですら。
それだけが悲しくて
それだけが悔しくて
切れた唇から落ちる血を拭おうとして やっと手の甲も切れている事に気が付いた。
それがやっぱり悲しくて 悔しくて。
−弱い
−なんでこんなに 弱いんだよ 俺は
そんな叱責をしたって どうしようもなくて
守りきれなかった 手の中で粉々になった髪飾りを見下ろして すんと鼻を啜った。
「帰ろう シロちゃん。」
なのにお前は 笑いながら手を伸ばしてきて。
「ほら おばあちゃんが夕ご飯作ってまってくれてるよ?」
淡い緋色の光に照らされながら 手を伸ばしてきて。
悔しいから その手を左手で取ってやった。
そしたら 悲しいのも悔しいのも なんだかどうでもよくなって。
泣き出したい気持ちもどうでもよくなった。
だから 今 俺は お前に手を伸ばそう。
手を繋ごう
全てを洗い流す事は俺には出来ないけど
少しぐらい お前を満たしてやりたいから。
手を 繋ごう。
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