囁くよ
 その台詞を
 君の耳元で 静かに囁くよ。


 静かに襖を開くと 机に突っ伏したままの彼女を見付けて 起きない事を予想しながら声をかけた。

「雛森?」

 予想通り返事が無い事を確認して 横に座る。

「莫迦桃。」
 幾度となく吐いたその台詞をくり返した。

 すやすやと 幸せそうな寝息をたてる彼女の横で。


 囁くよ
 その台詞を
 君の耳元で 静かに囁くよ。

「いつ襲われても知らねぇからな 阿呆。」

 髪を撫でると 指の間を彼女の黒い髪がすり抜けて落ちていった。それをじぃと見つめてから そっと目を瞑った。

 瞑っても たしかに彼女が其処に居るという事を感じる自分を自嘲する。
 全くもって 言い訳のしようが無いほど溺れていることは自覚済だった。

「自惚れても 知らないぜ?」

 お前が 人の部屋で幸せそうに寝息をたてるから。

 情け無い程心臓が鳴っていているんだ。


 囁くよ
 その台詞を


 そっと唇を 君の耳元によせて。


好きだ


 起きていても言えるように
 何度でも囁こう。


 今はまだ 寝ている時にしか言えないけれども


 囁くよ
 その台詞を


 君にしか聞こえない声で。


 嗚呼 愛しい人よ。















::後書::

そっと 耳元で。
かなり古い作品な気がしないこともありません…。
量多…お題スキーな事がまるわかり!(きゃぁ!)