それは if。
例えば の 話。
「痛い…」
「我慢しろ 莫迦。」
莫迦とは何よ と反論しようとして雛森は口を噤んだ。
莫迦な事は真実なのだ。莫迦らしい程。
「あのね」
「喋るな動くな莫迦。」
先程から日番谷は口を開くたびに語尾に莫迦を付ける。それが余計に反論し難い雰囲気を醸し出していた。
胃が痛いなぁ などと呑気な事を考える事で雛森はその重い空気から逃れようとしたが それはしっかりと双肩にかかって逃がしてはくれなかった。
ぎゅっ と 最後に包帯が結ばれる。
「終わったぞ 莫迦。」
「あ ありがとう…」
ずきんと痛むそれは 雛森にとっては自分の愚かさを示す分 誇りでもあった。
自分がこの傷を負わなければ 隊員は死んでいたのだから。副隊長の地位を占める程の霊圧を持った雛森だからこそ 誰も死を心配するような傷ではなかったが 平隊員が傷を受けたら なかなかそうはいかない。
「お前は 何でそう 人の代わりに傷を負おうとするんだよ…」
少し怒りの入ったその口調が 心配してくれいる事故というのは雛森も承知していたから 少しふにゃりと笑って答えた。
「代われる傷は 少ないから。せめても 代われる傷ぐらいは 代わりたいの。」
こんな傷で 一人の命が救えるならそれでいい と 雛森は少し首を傾げて言った。
幾らでも
傷を 負おう と。
「莫迦」
その日番谷の声が震えていたので 雛森は驚いて彼を見た。微かに握られた拳が震えている。
怒らした?
そんな不安が過ぎりながらも 雛森は言葉をかけられずに日番谷の口が開くのを待った。
「テメェがっ!」
怒りとも悲しみとも何ともつかない 少し上擦った声で日番谷は怒鳴った。
びくり と 肩を震わせてから雛森はそろそろと日番谷の少し俯いた顔を伺うように見上げた。
「…ッ …何でもない…」
強張らせていた肩をすとんと落とし 日番谷は溜息をつくと扉を開けた。
「ひ 日番谷君?」
何 どうしたのと雛森は少し眉間に皺を寄せて不安そうに彼の背中に聞いたが 日番谷は振り向かなかった。
「今度怪我してきたら 許さねぇからな。」
優しさの籠もった声に 怒られてはいないのだと雛森はふにゃりと笑った。
「肝に銘じておきます。」
日番谷は肩を竦めて反応してみせると そのままぱたんと扉を閉めた。その閉まった扉を見ながら 彼が何を言おうとしたのかと首を傾げた。
例えば
例えば 言えたならば
お前が傷付く分 俺の心が 壊れそうなぐらい傷付くのだと
伝え られたならば
君は もう少しだけでも 傷を負う回数を減らしてくれるだろうか。
それはただの
例えば の 話。
+戻+
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::後書::
かなり前にストーリー自体は考えたものなので
妙な違和感があります;何かしらん。
ヒツが怪我したら雛が怒って
雛が怪我したらヒツが怒って。
そんな二人が好きです。