まっすぐ
まっすぐ
思う道を 突き進め。
ひっく ひっくという啜り声を背中越しに聞く。
一向に涙は止まりそうにない。
背中合わせで座り込む姿は 何処をどう見ても瀞霊廷を纏める隊長 副隊長の姿とは思えないだろう。
誰の顔も見たくないと言われたのでこの状況に至る。
誰の顔も見たくない?
誰にも顔を見られたくないの間違いだろうに。 と苦笑する。
「お前は何の為に死神になった?」
「…っ…」
戦う為?
守る為?
解放する為?
解き放つ為?
殺す為?
生かす為?
「虚になった魂は 解放してやんなきゃいけねぇんじゃねぇのか?」
己が何をしているのかも分からずに 魂を喰らう存在を。
彼等の痛みを 取り除いてやりたいから。
「でもっ…!」
喰われた魂までは 帰ってこない。
「十三人 か。」
書類を見て呟く。
多い。圧倒的に。かなり大きい虚になっていただろう。
この内三人は 今日新たに加えられた名前だ。
「守りきって…あげ られなか…っ…!何の為に 強くなっ…たのかって…思っ…て…!あたしっ…!」
その涙を止める術を
その言葉に返す台詞を 知らない自分が 悔しかった。
「確かに お前以外の奴が行ってればあいつらは死ななかったかもしれない。」
びく と肩が揺れるのが分かった。
彼女は『責められている』と感じると こういう反応をする。
それを理解しながら 言葉の続きを紡ぐ。
「けれども お前以外の奴が行っていたら もっと死人が出たかもしれない。」
「そんなのっ…!」
言い訳にしか過ぎないじゃない と続けようとした声は出てこなかった。
「じゃあ あいつらは何故死神になった?何かを守りたい為じゃないのか?命を賭けていなかったと?」
「そんなわけ…無いじゃないっ!」
じゃぁ と一息入れてから続きを紡ぐ。
「戦って死んだ奴の為に 涙を流してやるだけでいいんじゃねぇの?」
よくない。
そう思いながらも そうなんだと思っている自分が居る。
ぐっと心臓の辺りを掌握した。どくん どくんと脈打つそれがやけに頭に響く。
あたしは 生きてしまったのだ。
彼等の為に死ねず
彼等の変わりに死ねず
生きてしまったのだ。
ならば 彼等の分までいきるのがせめてもの罪滅ぼしでは無いのだろうか。
「ひっ…うーっ…っく…」
ぼろぼろと大粒の涙が死覇装の色を少しだけ変えた。
紅く充血した瞳から 蝋燭の光で煌めく宝石が落ちてゆく。
まっすぐ
まっすぐ。
迷わず進め
迷ったならばそれは 彼等への侮辱だから。
+戻+
::後書::
胸を掌握する という表現が好きです。なんとなく。
色々なもの背負って
足を引きずって
それでも 歩いてゆくんです。