むっすう、と雛森はあからさまに不服気な顔をした。
 こうやって相手に解るように彼女が拗ねるときは、相当ご立腹の証拠である。

(ああ、ヤバイ。)

 じぃ、と彼女が見つめる視線の先に居る日番谷は、そう思いながらそっと目を逸らした。
 それでも素直にならないのは、最早意地である。

「…残しちゃ駄目でしょっ!」

 そう彼女が怒鳴るのも、彼の皿に、未だ半分以上スパゲッティが残されているからである。
 食べ物を粗末にするなとは良く云ったものである。

「っせーな、洋モノは嫌いだっつってんだろ!」

 だから俺はこんな処来たくなかったんだ、と日番谷は言い返すが、彼女も負けてはいない。
 腰に手を当て、大きく反論する。

「あのねえ、和食ばっかりじゃ塩分過多でしょう?!」

 お前は母親か、と返したが、ええそうですと即答されて日番谷は言葉に詰まった。

「このくらい、てめェ喰えるだろ。」

 ズイ、と皿を雛森の方にずらすと、同じようにズイと皿を押され返した。

「あたしをこれ以上太らそうったってそーはいきませんっ!」

 アホか、と日番谷が即答する。

「誰もそうは云ってねえだろ!」

 ぎゃあぎゃあと悲鳴のような言い合いを見ていた市丸は、オムライスを少量掬い、ぱくんと一口で口の中に含めた。
 もぐもぐと口を動かし味わいながらも、視線は喧嘩中の二人の方を向いている。
 夫婦漫才というのは、ああいうのを云うのだろうと妙に納得をさせられる。
 長いこと噛み砕いた後に、ごくんと喉に通してから市丸は向かいの席に座る松本の方を向き、ぽそりと呟いた。

「…雛森ちゃん、何であんな厳しいん?」

 パフェに乗っかっていた苺を口に含めながら、松本は諦めたように溜息をついた。


「愛情表現よ、愛情表現。」


 店員が、迷惑そうに二人の喧嘩を横目で見た。





 それもひとつの愛のかたち。













::後書::

アホ夫婦漫才。
これだけギャグテイストなの久し振りに書きました(笑)