愛されるという事が出来るというのは、一種の才能だと思う。
 一方的な愛を笑顔で受け止められること。それが、彼女の愛情表現なんだと思う。

 とてつもなく、重い才能だと思う。

 走り去る少女の背中を見つめながら、日番谷は大きく溜息をついた。
 自分に想う人が居るからとはいえ、あの傷付いた表情を見るのは堪える。
 まだ手紙云々で想いを伝えてくるものならば楽だが、目の前にされると駄目だ。
 彼女達は本当に凄いと思うが、その想いには応えられない。

「…またフっちゃったんだ?」

 ひょこりと出てきた彼女の気配は先程から気付いていた。

「…盗み聞きかよ。」
「…違うよ。」
「知ってる。冗談だ。」
「………日番谷君ってさ。」
「ああ。」
「…好きな人、居るんだね。」
「…ああ。」

 どうしても、愛しい人が居るから。
 他の人を愛せる程俺は器用じゃないから。
 そうやって、彼女達には返事を返していた。

 どうすれば傷付けず断れるのか、幾ら悩んでも駄目だったその末に決めた常套句だ。
 嘘ではない。
 真実に僅かズレがあるとはいえ、決して嘘ではない。

 幾人に一人かは、「それでも好きで居ていいですか」と問いてくる。
 たまに、好きでいるという断定系の人も居るが。

 その質問に、俺は首を振る。

 想いを秘めることすら許してはくれないのかと、何度泣き縋られただろうか。
 締め付ける胸の痛みに、何度瞼を伏せただろうか。
 それでも俺は首を縦に振らなかった。振ることが出来なかった。


 彼女達の想いに、耐えられる気がしなかった。


 気まずい沈黙は流れつづける。
 どちらともなく視線を合わせようとしては、どちらともなく視線を逸らす。その繰り返しだ。

 盗み見になってしまうのかもしれないが、彼女が告白されているところを見た事がある。
 彼女は同じような質問に、笑顔で首を縦に振った。

『ありがとう』

 その言葉を乗せて。


 その瞬間、俺には出来ない聖域を感じた。
 なんて強いのだろう。なんでこんなに。

「日番谷君」

 その声に現実に引き戻される。
 じっとこちらを見る彼女の目と視線が合う。

「……何だ。」

 極力自然を装い、そう言葉を返した。心音が耳元で響く感触。噛む下唇。
 何故だか、とてつもなく格好悪い姿を見られた気がする。自分のあまりにも狭い心に、溜息のひとつもつきたくなる。

「…あのね」

 焦らすように言葉を切りながら雛森は続けた。
 ズキン、ズキンとどこかが痛む。
 駄目だ、続けては。そう日番谷は口を開こうとしたが、それよりも雛森の言葉が音になるほうが早かった。






「大好きだよ」






 愛される才能の無い俺に

 愛する才能の無い君から。











::後書::

うはは…笑うしかない。(汗)
なんという終わり方だ…。