「ほら」

 差し出されたのは、いつの間にか大きくなった小指。
 思わずきょとんとしたあたしに、彼は少し照れた顔をして、それからごまかすように口を尖らした。

「指きりだよ、莫迦桃。」

 既視感を覚えた。
 いつか、そう、いつか、ずっと昔に。同じように彼はあたしに小指を差し出した。
 同じように照れて、口を尖らして、そして。

 同じように、あたしの名前を呼んだ。

 もうこれ以上勢いがつく筈が無いと思っていた涙が、より一層スピードを上げて零れ落ちた。
 嗚呼、あたし脱水症状で死んじゃうかもしれない。
 目の前が揺れまくって、きっとあたしの顔もぐちゃぐちゃだろうけれども、震える小指を差し出した。

 彼の小指がそっと絡まる。

 お情け程度に、彼は繋いだ指を上下に揺らした。
 ゆびきりげんまんのリズム。さすがに声にして歌いはしないけれども。

「…約束。」

 彼の右目がこちらを向いた。包帯で隠された左目が痛々しい。
 あたしのせいなのに。日番谷君の怪我は、あたしのせいなのに。

「守るよ。」

 なのに、貴方はそうやってあたしを甘やかす。
 いつもより、ちょっぴりハニーボイス気味な声で。
 ぎゅーっと胸を締め付ける瞳で。

「俺はずっと、絶対」

 意地悪。莫迦。莫迦。莫迦。心の中で繰り返す。
 あたしのせいでそんな大怪我したくせに、なんで。


「絶対、お前を裏切ったりしないから。」


 裏切ったのはあたしなのに。あたしなのに。
 どうしようもない莫迦はあたしなのに。


「だから、俺は死なないよ。」


 莫迦、莫迦、莫迦、莫迦。
 日番谷君がそんなのだから、だから、

 あたしの胸はこんなにずきずきしちゃうんだよ。


 莫迦日番谷君。








 ゆびきりげんまん、うそついたら、はりせんぼん、のーます。








 何度歌を歌い終わったって、指切ったはしてあげない。









::後書::

珍しく雛からの独占欲。
相変わらずうちのヒツは小っ恥ずかしい台詞ばっかり吐きます。
日番谷君が雛森をかばって左眼を怪我したというお話でした;;