一番最初に、不安を覚えたのが何時だったろうか。
接吻の後に見せる、どこか遠い目。
ふと立ち止まって空を見上げるときの、貴方の寂しそうな背中。
いけない、と、思った。
何故走っているか、なんて、ろくすっぽこの灰色の脳細胞は理解などしてはいなかった。
解らなかった。
けれど、その約束をしなければいけないような、そんな気がしていた。
息があがる。けれども、そこで立ち止まってはいけないような、そんな恐怖感が背中を押していた。
何故だろう。
あの憂いの背中に、揺れる瞳に、こんなにも不安になったのは。
なかなか彼には追いつかない。
数分前に部屋を出たばかりのはずなのに、彼の足は本当に早くなってしまった。
それでも走った。
どくん、どくん、どくん
走らなければ、いけないと思った。
遠くで、白い羽織が揺れた。
嗚呼、見つけたと、頭が思うより早く雛森は飛びつくようにその影を求めた。
「日番谷くんっ!」
口もあけはなし走っていたせいで喉が痛んでいたのか、枯れた声がでた。
掠れたその声に、日番谷はやっとの事で足を止めた。驚いた藍色の瞳と、目があう。
半分こけるかのようにして日番谷の前に雛森は止った。
「…どうした?」
息をととのえる雛森の上から、驚いたというよりはあきれたような日番谷の声が降って来た。
息はまだ上がっている。苦しい。
酸素が足りない。頭が回らない。
「雛森?」
半分パニックに陥っている雛森に、日番谷は少し眉のしわを深くした。
一体何があったのか、と。
雛森は、大きく首を横にふった。
「だめ、だめなの」
とりあえず、落ち着け。そういわれて背中を撫ぜられ、雛森はやっと息を吸った。
酸欠の頭がくらくらする。
それでも伝えなければいけないことがあった。
「日番谷君、」
伝えることが怖かった
けれども伝えなければいけないことだった。
どうか、こんなあたしに幻滅しないで。
そう願いをかけて。
「日番谷君は、あたしのものだよっ」
ひたすらに隠されていた、強すぎる独占欲。
それは縛り付ける約束。美しく見えて、何よりも汚いくせに、純粋な欲望。
日番谷は、少し息を吸ってから応えた。
「知ってるよ、ばーか。」
神様、神様、聞いてください。
あのひとのすべては、あたしのもの
あのひとの命も、あたしのもの
あなたになんてあげないわ。
+戻+
::後書::
死への焦燥