隊長就任には 式の後に一つ 副隊長も知り得ぬ儀式を行う。
それは
己の 墓標に名を刻むこと。
日番谷は ぽんと手の中の自らの墓標を投げて またつかんだ。
お世辞にも達筆とはいえない字で書かれた 日番谷冬獅郎の名を親指でなぞった。
手の平にすっぽりと入ってしまう この石が墓標なのだ。
其れは特殊な石で 持ち主が死ぬと極端に重くなり 一寸も動かなくなる。
つまりは死に場所の位置を特定するために使用するのだ。
その小さな墓標をぎゅぅと握り締めると ひんやりとした無機質らしい感触がした。
すぅと息を吸ってから また吐き出す。
―覚悟しろ。
―強く 強く。
―何時よりも 強く。
―己の死を 覚悟しろ。
耳の裏にこびり付いた声が 再び脳内を巡りはじめた。
それを振り払うように首を軽く振って それから立ち上がる。
違う
己の死など 覚悟しなくても怖くなどない
違う
覚悟すべきなのは
彼女の 死。
己の墓標を前にして
君の死の事ばかり考えている。
己の墓標を前にして
君の名が 刻まれない事ばかり願っている。
「日番谷君?」
唐突に扉越しに聞こえた声に 思わずびくんと肩を振るわせた。
「雛森?お お前こんな時間に…?」
慌てて懐に石を放り入れて 扉を開いた。
雛森は 少し困ったような顔をしながら日番谷を見下ろした。
「どうしたんだよ?」
言及されて 雛森は目を宙に少しだけ浮かせた。それから戻ってきて きまずそうに あのね とつぶやいた。
「聞こえたの」
「何が?」
「日番谷君が 泣いてる声が。」
日番谷は思わずぽかんとした顔をしてから ぷっと吹き出した。
「な 何よう!あたしだってそんなことないとは思ったんだけど だけど聞こえたんだもんっ!」
ぷぅと頬を膨らませて抗議する雛森を見上げてまた 日番谷は笑った。
「敵わないな お前にだけは。」
どういう意味よ?と雛森は少し怒ったようにして 首をかしげてみせた。
+戻+
::後書::
ポエム終わりではない珍しい作品。
設定捏造しまくり…やけにこのお題シリーズは捏造してしまいます;