風を睨め
海を掴め
空を、飛べ。
(…嗚呼)
ギリギリと痛む胸に、俺は目を伏せた。
空は大きな声を上げて泣いている
地は体を震わせ怒り、海は空の涙を飲み込み黙する
世界はめぐり、そして壊れる。
ギリ、ギリ、ギリ
音は益々大きくなってゆく。
(俺は…)
謳ってみせろよ死の謳を
謳ってみせろよ生の謳を
それでも世界は動じずに
無常に時を流すだけ。
(俺は、一体…)
目に映るのは、誰かを守るには余りにも小さすぎる掌。
振り絞っても出てくるのは、女にでも出せるようなボーイソプラノの声。
忘れられた謳が知っている
忘れられた真実を知っている。
血に伏せた彼女は小さく俺を嘲った。
「泣きたいの?ぼうや。」
俺はその人の姿をした虚を見下ろした。
彼女はお構いなしという顔で、謳を続ける。
ぐるり、ぐるり
世界は回転して巡る
ぐるり、ぐるり
そうして人は振り落とされてゆく。
ギリ、ギリとこの謳に反応し軋む心臓は何を訴えているのだろうか。
既に左手が散っている彼女は、喉が消えるまできっと謳いつづけるのだろう。
何十回と去ってしまおうと思ったが、足は縫い付けられたようにその場を離れない。
何十回と突き刺してしまおうと思ったが、手は鉛を纏わされたときより重い。
ただ俺は、そこに呆然と立ち尽くしながら謳を聞きつづけることしか出来なかった。
風を睨め
海を掴め
空を、飛べ。
そうして世界は回ってゆく。
謳を忘れて、回ってゆく。
そこにあるのは、慰めの言葉すら無意味に感じる世界だった。
+戻+
::後書::
なんだか…「結局何?」って感じになってしまった…orz