暗闇に、光が差した。
 かすかな痛みを伴って世界は真っ白になる。
 この、コゥコゥと鳴る音は何だろうと雛森はぼんやりと考えた。

 僅かに色が取り戻され始める。
 ここは何処だろう。そう思って顔を動かそうとおもったが、うまく動かない。

「…よぉ」

 その声を耳が拾った。どくん、と胸が鳴る。

 頭を動かしたいのに動かないもどかしさに、焦りを感じる。
 熱いものはもう目尻までこみ上げている。
 嗚呼、何でこの人の声はこうもあたしを狂わせるのだろう。そう思いながら目を凝らす。

「久しぶりだな」

 彼が、やっと視界に入る。
 ぼろぼろとだらしなく涙は流れ落ちて枕に吸い込まれる。

 小指が動く。
 中指が動く。
 そうやって、硬直が溶けてゆくように一つづつパーツが動きを取り戻し始める。
 重い手を、腕ごと持ち上げる。彼の方へと精一杯伸ばす。

「−…つ、がや、くん」

 指先が彼の頬に触れると、じんわりと痛みが指先に響いた。
 精一杯頬を覆うように指を動かす。親指で、擦るように彼の目の下を何度も触ると、彼はくすぐったそうに片目を瞑った。

 ゆっくりと、頬の筋肉も動きはじめる。

 嗚呼、今あたしはどれだけ不細工に泣きながら笑っているんだろう。

「会い、たかった」


 闇の中で、全てを諦めた。
 もういいやと、何度も呟いた。
 身を任せてしまおう。そうすれば、楽になると。

 だけど、目の端でチラチラと君の光が見えるから

 だから、あたしは

 ちゃんとここまで、戻ってこれたよ。


 すう、と息を吸い込み、吐き出すようにしてその言葉を繰り返した。

「会いたかった、よ」

 頬を覆っている手の手首を、彼はそっと掴んだ。

「もう少し、寝てろ。」

 細めた目は、この凍えた体には痛過ぎる程温かかった。
 手首を掴んだ指先は少しずつ上に上って、彼女の手を包み込んだ。

「大丈夫、ここにいるから。」

 お前が起きるまで、ここにいるから。そう彼は呟いた。
 すでに彼女の瞼は塞がりかけている。
 コゥ、コゥと吸入器がなる。

 ぎゅ、と手を握る手に力を込めた。










「もう二度と、離さないから。」














::後書::

角砂糖50個入りも大好きですが
何だかんだいってやっぱりシリアスがあたしの原点な気がします。
雛森が目を覚ましました設定。