ドクン
 ドクン

 掌握した心臓から血が送り込まれるのを感じた。
 古い傷が疼いて仕方無かった。痛みと同時に、むず痒いような感覚に襲われる。
 どうしようもないその痒みに言葉に表せないような苛つきを感じる。
 例えるとすれば、眠いのに寝られない夜の時のような苛つきだ。

(安心しろ)

 そう、祈るようにして心臓に語りかけた。

(忘れてなど、居ないから。)

 ズキン、と鋭い痛みが走って思わず布団の上で丸まった。
 突き刺すような痛みは断続的に襲ってくる。
 唐突に吐き気と目眩に襲われて、思わず日番谷は呻いた。

「畜生ッ…!!」

 その悲痛な叫びを襖の向こう側で聞いていた雛森はぎゅっと目を瞑った。
 手にもっていた書類を強く抱きしめる。
 時折日番谷が古傷に呻いている事は知っていた。
 実際に彼が苦しんでいるのは肉体的な古傷ではなく、精神的な古傷だ。
 解っているからこそ、襖を今すぐ開いて彼の隣に駆け寄りたい気持ちを堪えてこんなトコロで佇んでいる。

 傍に居てはいけない。

 これは、戦士の呻きだから。

 そうやって彼女が自分に言い聞かせている間も、古傷は日番谷を苛み続けた。
 鮮明に甦るのは、未だ彼が三席であった在る日だ。
 気付いた時には目の前が真っ赤になっていた。
 虚は彼を貫いたまま、その爪で日番谷を攻撃した。三センチ程の傷が左肩から右脇にかけて出来た。
 心臓を貫かれた彼を見た時、思い出したのは彼の笑い顔だった。

 オマエは必ず、隊長になるよ。

 そう、何時も笑っていた。
 貫かれた、その時も。
 力の無い瞳が素早くこちらを見た。

タ イ チ ョ ウ

イ キ テ

 投げ出された体は無造作に地面へと落ちた。
 その後、その虚をどう倒したのかとかいう記憶は一切という程無かった。

 ズキン、ズキンと傷が呻く。

 涙は、止まらない。






 そっと、雛森は扉を開けた。
 泣き疲れて布団の上で丸まっている彼からは寝息が聞こえた。
 少しホッとしながら、掛け布団をかけてやると、僅かに彼は身動きをした。

 そっと、その額にキスをする。

(泣きたいな)

 何となく、雛森はそう思った。













::後書::

忘れないでと疼く傷。
リハビリ作品でーす…(汗)