「莫迦桃、何やってんだよ!」

 薄い布を何枚も張り合わせて作られた羽織を大事に肩にかけながら、シロは玄関から枯れた声で叫んだ。
 その声に反応して、銀世界の中の桃が彼を振り返った。

「シロちゃん、出てきちゃダメじゃない!」

 遠い距離を補うために、桃もまた叫ぶ。裸足の足は真っ赤に霜焼けしている。

「莫迦、お前、こんな日に外に出るんじゃねえよ!」

 何処となく濁音じみた声でシロはそれでも叫んだ。
 ずっと鼻を啜る。
 桃は少し考えてから、仕方ないなぁとため息をついて彼の元へと走り出した。
 指先も真っ赤になっていた。

「シロちゃん、お部屋戻ろう。風邪悪化しちゃうよ。」

 足の裏の雪を払うと、ぐいと彼の手を引いて桃は部屋へと向かった。

「莫迦桃、ほっといたら、お前が風邪、ひくだろ。」

 単語単語の合間に鼻を啜りながらシロはおとなしく引かれて歩を進めた。
 桃の指先の冷たさにシロは顔を歪めた。
 本当は針山の上でも歩いてきたかのように痛みが走っているだろうに、なんでこいつはこうも強がるんだ。

「大丈夫だよ。あたし、あんまり風邪ひかないもん。」

 自信ありげにいう桃に、シロは片方の眉尻を上げて答えた。
 何度も鼻をかんだのだろう、シロの鼻も彼女の指先に負けないぐらい真っ赤になっている。

「一週間前までは、お前が、風邪ひい、てたんだろ。」

 そうだったっけ、と笑いながらとぼける桃の後ろで、ふぇっ、とシロは中途半端なくしゃみの声を出した。
 彼の背中を押すようにして布団の中に入れてから、桃はかりん湯を作ろうと立ち上がった。
 あんなもの飲みたくないといつもシロは思うが、飲めば楽になってしまうので薬だと思って飲んでいる。

 何分もせずに彼女が湯飲みに入れて帰って来た。

「はい、シロちゃん。」

 桃は、枕の横にお盆と共に置いた。
 それを飲むために日番谷はだるそうに上半身を起こす。先ほどより悪化してるのは目に見えていた。

「シロちゃん、お外出ちゃダメでしょ。」

 苦笑する桃をむすっと拗ねた顔で睨みながら、日番谷は熱いかりん湯をちびちびと舐めるようにして飲んだ。

「…このクソ寒い中、何やってたんだよ。」

 桃はきょとんとした顔をした後、ふわりと笑った。

「秘密。」

 シロは不満げに眉間に皺を寄せたが、桃に答える気はこれっぽっちもないようだった。
 追求しようとしてはとりとめのない話に流されを繰り返しているうちに、シロは眠りについた。
 それを見て、しんどかったくせに、と桃は苦笑した。相変わらずの強がりはお互い様だろうか。




 数日後
 シロは、おばあちゃんに彼女の手の赤い理由を教えてもらうことになった。




「花の上にのっかった雪をね、全部のけてやってたんだよ。」

 花が折れないようにと。
 綺麗に咲けるようにと。

「そんなことしなくったって、お花は大丈夫だっていったんだけどね。」

 優しい目で微笑みながら、おばあちゃんはそう言った。

「…ばっかじゃねえ。」

 シロは不貞腐れたようにそう呟いたが、心の中では解っていた。
 その莫迦なところが、彼女の何よりもの長所であるということを。

 そして何よりも
 彼女のその心が、温かいということも。














::後書::

も…ものすごいツマラナイものを書いてしまった気がする…(汗)