hello,hello,my god.
 私の声は、とどいていますか。

 HELLO*GOD

 虚の報告が入った時には既に、一人の少女が命を落としていた。
 リーン。リーン。鈴の音が脳内に響く。
 リーン。リーン。
 優しい育ての親は、子供たちの葬儀の時に鐘を鳴らした。
 こうすると、神様が気づいてね。あの子達をね、ちゃあんと、上まで行けるまで、見届けてくれるんだよ。
 琉魂街で死んだ者は再び現世に帰るのだと、誰もが知っていた。でも、誰も彼女を貶さなかったし、その言葉を否定しなかった。

 リーン。リーン。

 虚の血で染められた、赤い世界は不気味に美しかった。

「ごめんね。いたかったよね。」

 既に生き絶えた少女に話し掛ける。
 反応はない。

「霊感なんて、なければよかったのにね。」

 恐怖の表情のまま赤い涙を流す少女の瞼を下ろした。
 先ほどまではまだ温もりのあったその体も、すでに冷たくなりはじめている。
 震えもしない自分の手が憎らしい。

 一筋の涙が、頬にこびりついた血を溶かし流してゆく。

「真樹ちゃあん。」

 小さな少女が、遠くで呼んだ。
 そこでやっと、その冷たい少女の名が真樹であることを知った。
 パーマがかった頭に、小さなリボンを結んだ少女が、精一杯の大声でその名を繰り返した。

「真樹ちゃぁん、どうしたの?」

 心配そうに駆け寄る少女の表情は、近づくほどに歪んでいく。
 ちく、ちくと、胸が痛む。二人の少女の傍らに佇みながら、真一文字に結んだ唇が痛かった。

「真樹ちゃんっ?」

 伸ばされた小さな手が、幼い頬に触れる。

「まき…ちゃ…」


ぱんっ


 辺りに、煙の匂いがたちこめる。
 ちく、ちく。
 記憶を燃やし創りなおす、悲しい匂いだ。
 こうやって、肉体の記憶はいくらでも作り変えられる。それでも、魂の記憶は揺るがない。
 幼い一人の少女は命を落とし、幼い一人の少女は抱えきれないほどの悲しみを抱える。
 それだけは、事実以外のなにものでもない。

 忌わしいあの記憶を封じる事を、拒否したのはあたし自身だ。
 胸の傷も、もう痛まなくなった。夢で見ることもなくなった。
 思い出そうとしても、もう色はついていない。

 それだけ記憶の奥底へ、押し込む事ができた。
 それでも。

 それでもまだ、夢だったんじゃないかと、今でも思う。

 あたしは弱い。
 この手で守れるものなんて、たかが知れている。
 あたしは弱い。
 守れるものより、傷つけるもののほうが多い。

 hello,hello,my god.
 教えてください。


 私の真実はどこにありますか?


 右手の中にある暖かいぬくもりを、もう二度と離さないように。
 しっかりと握る方法はを、教えてください。


 hello,hello,my god.


 嘆きの海に、浮かぶ声。