まるで 飛べない鳥のように。










「あ」

 其処に居たものが目について 日番谷は歩を止めた。
 「ソレ」をもう少し近くで見ようとしゃがむと、未だ生きている事が解った。
 元々生き物は好きだが 無闇やたらに拾ってくるような事はしない。
 …だが それは暫し雛森に拾われ結局日番谷の手元に戻ってくることはあるが。

 しかし 何故か今日だけやけに「ソレ」が気になって仕方無かった。
 任務帰りの ほんの少し血がついた掌に「ソレ」を乗せると「ソレ」はぴくぴくと動いた。

「大丈夫か?」

 随分と体力を消耗している様子の「ソレ」に日番谷は声をかけた。
 「ソレ」は まるで返事をするように少しだけ首を上げた。それを確認してから そっと抱えるようにして日番谷は歩を進めた。
 瀞霊廷内に足を踏み入れて直ぐに 忙しなく動き回って掃除をしている四番隊員が目に入った。

(…たしか あそこの担当って十一番隊だよな…。)

 少し哀れに思いながら 日番谷はその隊員に声をかけた。

「おい。」
「は はいっ?!」

 びくんと驚いて肩を竦めながらも 彼はこちらを向いて気をつけをした。

「…お前さ コレ治せるか?」
「へ?」

 間の抜けたその声に 当たり前の反応かと 日番谷は少し頬を掻いた。

「で どうなんだ?」
「あ はい 別に大丈夫だと思いますが…。」

 おずおずと手を差し出してきたので 「ソレ」を渡すと 隊員の顔が緩んだ。

「どうしたんだいお前?大丈夫か カラスにでもやられたのか?」

 隊員は優しく声をかけながら「ソレ」の様子を暫く見ていたが 少したって顔をあげると 申し訳なさそうな顔をした。

「風切り羽がやられてます。傷は治せますが もう飛べないでしょう。」
「…そうか。ともかく 傷を治してやってくれ。」
「はい。」

 隊員は返事をするとしゃがみこんでその場で治療を始めた。
 日番谷は それをじっと見下ろしていた。なんとなく飛べないであろうという気はしていたが 少々複雑な感じになる。

 数分立ってから ゆらりと隊員は立ち上がった。すこし足元がふらついていた。まだ新人だったのだろう 日番谷はなんとなく申し訳の無い気持ちになった。

「はい。もう大丈夫だと思います。」
「…嗚呼 すまなかったな。」

 何か礼をしようと考えた時に 向こう側にピンク色の頭を発見した。隊員の持っているホウキが同時に目に入った。

「草鹿!」

 大きな声で名前を呼ぶと やちるは直ぐに気がついて 軽い足取りで近づいてきた。

「どうしたの ヒッツー?」
「ヒッツーじゃねぇ。此処 十一番隊の範囲だろ?」
「えっ!」

 途端に四番隊員の男は顔面蒼白になって 必死に頭を振った。

「日番谷隊長 良いですよ!」
「えー そうなの?」
「そうだ。」
「駄目だねぇ みんなサボって!待って りんりんでも呼んでくるよ。」
「頼む。」

 りんりんって誰だと思いながらも突っ込まずに日番谷は頷き 消えてゆくやちるの背中を見送った。

「さてと。有難うな。」
「え あ は はいっ!」

 慌てて返事をする隊員に背中を向けて歩き出すと 抱えていた「ソレ」が頭を上げた。
 本当に元気になったようで 少しほっとした。
 何でこんなにも気になっているのだろうか。
 その疑問を解消しようと頭を捻るが なかなか答えが出てこない。

 何かに似ていると 思った気がした。

 そう 確か「ソレ」が地に伏せている時に 何かを連想したのだ。何だっただろうか。


「日番谷君?」

 唐突に後ろから声が聞こえて 日番谷は不覚にもビクンと肩を跳ねさせた。

「雛森…?!」
「日番谷君が驚くなんて珍しいっ!」

 けらけらと雛森は笑って 日番谷の隣に並んだ。

「…?日番谷君 何抱えてるの?」
「ん?嗚呼 これか?」

 そっと「ソレ」を見せると 雛森は少し目を見開いてからすぐに細めた。

「…風切羽が。」
「解るのか?」
「…うん 怪我した鳥は何度か見た事があるから。」
「そういや 良く拾ってきたな。」

 雛森が動物を拾ってくるという癖は ずっと前からある癖だった。
 貧困故に世話は難しかったが それでも必死に世話していた雛森の姿は今でも直ぐに思い浮かぶ。…大半の場合 結局日番谷も手伝っていたが。

「飼うの?」
「今更捨てるわけにもいかないしな。」
「そっか。じゃぁ名前付けてあげないとだね。」

 そう雛森が言った瞬間 「ソレ」はぱっと起き上がった。
 足場が掌という不安定な場所なせいで フラフラとはしていたが それでも雛森に近づこうとしていた。

「お前が気に入ったらしいぜ?」
「あはっ ホント?嬉しいなぁ。」

 雛森はクスクスと笑いながら「ソレ」に手を伸ばしてきたので 日番谷は「ソレ」を雛森に渡した。

「お前が飼うか?」
「そうしよっかなぁ。ねぇ あたしと日番谷君 どっちに飼われるのがいい?シロちゃん。」

 雛森がさも自然そうに「ソレ」の名前を口にしたので 日番谷は思わず聞き逃すところだった。

「……は?」
「シロちゃん。この子の名前。」

 可愛いでしょ と笑顔で言う雛森は日番谷が蒼くなっていることに気付いている様子も無かった。

「…ちょっと待て。」
「真っ白だからね。シロちゃん。」
「いや いくらなんでもその名前は。」
「可愛いねー シロちゃんっ!」
「………。」

 嬉しそうに応える「シロ」を見て 日番谷は右手で眉間を抑えた。
 どうやら 命名「シロ」で決定の様子だ。

「本気か?」
「本気っ!だって この子日番谷君にそっくりだもんっ!」


 雛森のその台詞に はっとして日番谷は立ち止まった。

 そうだ

 解った。


「…シロ。」

 「シロ」はくいと顔を上げて 確かに日番谷を見た。
 「シロ」が何に似ているのか 今やっと確かに理解した。


 自分に似ているのだ。


 風切羽を痛めて 飛べなくなった鳥。
 全てを失って 歩めなくなった自分。


 何時しかの自分と重ね合わせていたのだ。

 …ということは だ。


(…鳥とライバルか。)

 なんだか酷く情けない気がしたが 事実は事実なのだから仕方無いだろう。
 せめても鳥に負けないようにはしなければいけない。


「どうしたの 日番谷君?」

 首をかしげる雛森に なんでもねぇと返して歩を進めた。




 蒼く蒼く空は広がっている。

 飛ぶ為の羽も 今は無くしてしまったけれど

 けれども此処で生きている。



 君の隣で 僕は生きている。











::後書::

読んで下さった方々の変わりに 声を大にして叫びましょう。

意味わかんねぇ。

多分本人が一番意味解ってません。(殴)
不思議なものになってしまった…。
ヒツの生前の人生が恐ろしく重いものだったという前提で読めば…
…ギリギリアウト?(汗