いつものように そう 何時も通りに。
つまらない書類の山に囲まれていた時の事。
それが 始まりだった…。
「スミマセン 隊長ちょっとこの子預かっておいて下さい。迷ったみたいなんです。ちょっと今忙しくて…。宜しく御願いしますね くれぐれも泣かせたりしちゃ駄目ですよ。隊長顔怖いんですから。」
唐突に現れた乱菊は 突っ込む間も呆れる間も 何か口にする間は一切与えずに 淀みなくその一文を一息を言い終わると瞬く間に消えていった。
かなりの急用があるのか 多忙なのだろう。
我が副官ながらよくやると 乱菊が消えた方向に目をやってから その副官が連れてきた迷子とやらに目を向け… 彼女への賛美の気持ちは10秒と持たなかった。
前言撤回
流石我が副官様。トラブルを運ぶ渡り鳥だ。
思わずそう 心の中で毒づいた。
「は はじめ…まして…。」
おどおどとそう言った少女は 銀髪だった。
そう 日番谷と殆ど大差がない程に色素が薄い。丁寧に手入れしてあるのか 日番谷の固いそれとは違ってさらさらとしてはいるが…
瞳の色も又 酷似している。
これだけでも十分珍しいというのに。
その姿のどの形をとっても 仕草をとっても 【とある人物】と寸分違わないのだ。
そう 違うのは色だけなのだ。
例えばこの少女の色を全て抜いた写真と あの人の幼少時代の色を全て抜いた写真ならば 重ね合わせればズレなど一つも現れないだろう。
似非ドッペルゲンガーか。
じゃぁ これをあの人に会わせたら どちらかが死ぬのか?…いや それは御免だし そんなこともないだろう。
同じ ではないのだ。
色のみがではあるが…見分けは つく。
少女の不安そうな眼差しと視線が合い 何も言葉を返していなかった事を思い出す。
「ああ…そこらへんにでも座っておけ。ちょっと待ってろ 誰か呼んでくる。」
子供の世話は やはりあの人に限る。
それに この少女と真横に並んでもらい比較もしてみたい。
そう思い立ち上がると 勢い良く襖が開いた。
パンッ と軽快な音が部屋に響く。
最近脆くなってきた扉が みしりと悲鳴を上げた。壊れそうだから そっと開けてやってくれと 度々注意しているというのに。
怒鳴ろうとして顔をあげ 再び硬直する。
「テメェっ!梅に触れんじゃねェっ!!」
こう 表現しようの無い程の音量。
キィーンっと頭に響き クラクラする。
嗚呼 良くもやってくれた。問題を運ぶ我が隊の渡り鳥よ。今度は最早賛美に近い思いで日番谷は己の副官の顔を思い出した。
コンナモノ 二つも 要らない。
あの人を連想させるほどの 漆黒の髪と 漆黒の瞳。
だが そこに立っているのは確かに
幼少時代の 自分だった。
口内に溜まった唾液を 一度だけ飲み干した。
まるで最後の願いをかけるかのように 少女…梅の方に目をやったが 梅の口から発せられる言葉は絶望的だった。
「クロちゃんっ!」
決定打撃。
ぐらり と視界が揺れるのを感じた。
嗚呼 何故問題とはこうも唐突に しかし途切れる事無く来るのだろうか。
これを理由に他の隊に書類を押しつけようと 心深くにしっかりと誓った。
『保母さん呼び出し』
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