明るいパーティー会場とは裏腹に 窓の外の木々は妖しく暗くざわりざわりと音を奏でていた。
温度調節のされた部屋にばかり居ると四季感覚が薄まってくるが 外は凍える程寒い。
雪 降らないかなぁと呑気に考えながらゆっくりと階段を下りた。
今回のパーティーは いくら小国の といえども王が主催しただけあり十分派手だ。
顔に仮面かメイクを施すのがこの国なりのパーティーに出席するものの礼儀で 皆…仮面舞踏会というには大袈裟だが…仮装パーティーの如くになる。
その中で仮面やメイクの無い者はつまり 国王の血縁者という事になるのだ。
ご機嫌よう 今宵も月が綺麗ですね。
にこりと笑って 何度目かの口上を口にした。
本当に美人な方ばっかり。
良く開かれるパーティーの度に思ってしまう。眩しくなる程綺麗なのだ。
着飾りが綺麗な人もいれば それ程派手でない服なのにしっかりと本人の美しさを表現する綺麗さだったりもする。
いつもの事ながら自分が場違いな気がして 今すぐ逃げ出したくなるのだけれども 国の「姫」が此処に居ないわけにはいかない。
それが酷くいつも心苦しかった。
あたしがもっと 美人に生まれてくればなぁ…。
こんなパーティーも 楽しめたのかもしれないと思った後に 無いモノ強請りだなぁと内心苦笑して その考えを振り払った。
「姫様 どうでしょうか私の息子は?」
ふと 富豪の一人が希望の満ち溢れた目で喋りかけてきた。
そう言われて グラスを傾けて指された方向に居る 一人の美麗なオールバックの男の人を見た。
黒いスーツの胸ポケットに薔薇を差している。
格好良い人。
これは 何度も色々な人に思った事なのだけれども。
「ふふ 私には少しお話が早いかしら?パーティーをお楽しみなさって下さいね。」
にこりと笑ってその場をさり気なく去った。実際はもう一国の姫としては 焦らないといけない次期なのだ。
それは周知の事実だからこそ こういう風に縁談が持ち込まれる。そうしてその台詞は 「×」の代わりとなるのだ。
勿論 結婚に興味が無いわけでも 焦っていないわけでもない。
十六になれば相手を決めていなければいけないのだ。
けれども 何故だろう。
嗚呼 と溜息をつきそうになるのを堪えた。
どうせ 「政略結婚」をさせられるのは目に見えているのも事実なのだが。
これ以上 幸せを逃したくはない。
そんな事を考えながら ふと雛森は窓に目を向けた。
左手を腰に当て 右手で紅いワインの入ったグラスを傾けながら 彼は窓に寄りかかるように立っていた。
真っ黒い 服。
黒色で縁取られた目。
月光に照らされて光る 銀髪。
全てが 興味を引くには十分過ぎた。
あの髪は 染めているのだろうか?
興味に駆られるままに 彼へと一歩 歩を進めた。
するりと 彼の左腕に手を添えた。
その時 あたしは一体何を考えていたのだろう?
ただ 全身が触れろと叫んでいた。
窓の方に向いていた彼の視線がゆっくりと動き あたしを捕らえる。
碧色の瞳に 捕らえられる。
「…あん?」
とくんと 心臓が鳴って血液を送り出した。
こくりと一度 唾を飲み込んだ。
「ねぇ 踊りましょう?」
彼はほんの少し目を見開いてから また細めた。
開いた唇からこぼれ落ちる 心地良い少しトーンの低い声。
「仰せのままに」
そっと手を取ってくれた彼から 少しだけ優しい香りがした。
+『I will kill you.』+
+戻+
::後書::
雛森視点→日番谷視点→雛森視点…で場面転換してゆきます。
この章が短いのは 日番谷視点を書かないと物語が解らないせい…。(笑)
宿題に涙ぐむ私を慰めてお相手してくださった(笑)皆様へ。
そして 鬼剣様に 深い感謝をこめて。
踊りませんか?