−あの国は 危険だ。

 −成る程 確かに小国だろう。

 −しかし 小国は己に力が無い分 交易の力を持つ。

 −国と国を結びつけるのだ あの国は。




 −姫を 差し出す事により。





 欠伸を噛み殺しながらその任務の内容を聞き流し続けた。
 いくら正当な理由を無理につけようったって 所詮は人殺しなのだ。どうやったってそれは変わりない。

 国を滅ぼす力をもった 暗殺部隊

 何処にも所属せず
 何にも縛られない その「部隊」と呼ばれる其れを構成する人々は 既に縛られている。

 「義」に。

 皆 親に捨てられた者なのだ。拾われた俺達は 逆らう事を許されない。

 『黒の使者』

 …全くもって単純なネーミングセンスだという事はこの際置いておくが その名前は知る者は知る名前だ。
 少なくとも笑顔を消させる程の力はある名前。
 特色といえば 簡易だ。



 目立つ。



 暗殺部隊が目立ってどうするのだと言いたいが 目立つものは目立つのだ。
 銀髪。赤髪。顔に大きく掘られた刺青…

 まぁ それが理由で捨てられたのだから確かにそうだといえばそうだろう。



 会場にするりと足を踏み入れた。
 金銀で飾られた人々の中の黒は目立つようにも感じるが 意外とそうでもない。スーツの人々も多いせいだろうか。
 如何ですか と 微笑まれながら差し出されたトレイの上にのっている赤ワインの一つを取る。

 窓際まで歩いてゆき とんと壁にもたれかかった。

 ワインを少しだけ口に含んで 窓から空を見上げた。
 この月が この国の終わりを告げるのだと思うと 笑いがこみ上げて来た。


 暗殺標的は国王ではなく 姫の方だ。


 さぁて どうしたものかなと呑気に考えていると ふと近くに気配がした。
 特に気にもせずにワインを飲み干した時に するりと手に触れる感触がした。



 いつもだったら 何も考えずに 反射的に振り払っていたのに。

 何故かそのときだけ俺は 振り払うという行為を考えもしなかった。

 唯そちらに ちらりと目を向けて 目に映るそれが何かをゆっくりと考えた。



 腕に絡まる 細く白い指。





「…あん?」





 何故そのとき 確かに脳にインプットされているはずの写真と重ならなかったのだろうか。
 「標的」の写真と重なると気付いたのは その白いドレスに身を包んだ彼女が言葉を発してからだった。








「ねぇ 踊りましょう?」







 一度だけ 心臓が送り出す血液の量が増えて。
 直後それは いつもどおりの心臓へとまた戻っていった。






「仰せのままに。」






 赤毛の…よく先輩と呼べといわれるのだが 未だに呼ぶ気にはなれない…男の台詞が頭をぐるりと回った。



『一つだけ 忘れるなよ』

『標的に 一瞬でも感情を覚えるな。可哀想とかは勿論だ…相手はヒトじゃねぇ。モノだからな。』

『けれども 可愛いとか そういう感情も覚えるな。』

『モノだって 壊したくなくなる。』

『よく 覚えておいたほうがいい。』




『一瞬でも感情を抱いた時点で その任務は失敗だ。』


 気付かれない程度に小さく クッと自嘲した。
 元々彼は 任務失敗はおろか 標的を逃がしたとして罰則を受けている。

 お前が間違っていると証明してやるよ。


 この任務を 遂行する事で。







 そっと指を絡ませて リードを始めた。

















+『Do I know for what you hope?』+







::後書::

…短っ…
単発続きになるかと思われます;
企画無視を早速した作品。
すでに日番谷じゃないとか そんな事は言っちゃいけません。


私は貴方を殺すでしょう。