少しだけひんやりと冷たくなった手。
 それは優しく けれども力強くて…。

 踊っていると良く分かるのだ。相手の人柄というか…性格というか。
 夢見ごこちで彼を見つめてから やっと目がぱっちりとした。


 どっ ど どうしよう…!


 混乱して目が回りそうだった。
 知らない感情
 『カッコイイ』とか そんなんじゃなくて―…

 ああ これが小説で読んだ『恋』という感情なのだと 脳が唐突に理解した。
 呼吸すらも上手く出来なくて 目の前の景色がじんわりと白を帯びてゆく。
 唯一違う事と言えば あの小説のように心音は可愛らしい「トクン」ではなく もっとリアルで力強い「ドクン」だ という事ぐらいだろうか。


 緊張 す ル


 5歳の時に初めて国民の前でスピーチをさせえられた時の記憶がふと甦った。あの時もたしか こんな感じだったかもしれない。
 人前に立つ事の多いせいだとはおもうが 暫く緊張などという感情には程遠い位置に居た気がする。

 どうしよう と また頭の中で色々な事がぐるぐると回り始めた。




 顔 が アツ イ




「…大丈夫 ですか?」
 その声と同時に 踊りを止める合図かのように彼はそっと手に力を入れた。
 タン と ヒールの高い靴が音をたてて踊りの一時中断を知らせた。

 酷く自然な動きで 彼の心地よい体温の手の平が あたしの額に触れた。



 かぁっ



 全身の血液が全て頭に集まったのかとおもう程に熱くなった。
 くらり くらり くらり
 どくん どくん どくん

「だ 大丈夫です…!」

 思わず慌てて 彼の手から自分の額を外すために一歩下がった。


 だ だ だめだよ アタシっ…!これ以上この人に触れられてたら 壊れちゃうよ…!


 そんな警告を自らにしてみたが 当然の如くそれは無意味に終わった。

「…そう です か?」
 こくこくとその言葉に何度も頷いてみせた。一曲目が終わり 少しの間だけ音楽が途切れた後にまた 二曲目の前奏が始まる。
 少し迷ったような彼の瞳と目があって 慌てて彼の手をとった。
 驚いたような顔をしたのが意外で 微笑んでみせた。

「…続きを」
 踊りましょう という言葉は必要なかった。
 名も知らない彼は 口の端を少しつり上げてわらった。

 離れていた指先がまた 触れあう。




 心配してくれるのは
 あたしが 一国の姫だからでしょうか?

 あたしがもしも
 街娘だったら
 貴方は 一体。


 ああ 貴方は何を求めて来られたのですか?




 様々な策略と欲望が入り交じる場所。
 そう ばあ様が涙ぐみながらこのパーティー会場の事を言っていた事を思い出した。

 この人には似合わないな と 思った。
 欲とはかけ離れた所に居るような…

 そこまで考えて 自分が急に恥ずかしくなった。
 名前も知らない 会って一時間も経っていない人なのに こんな勝手に想像をして。

 ああもう 恥ずか…






 その思考は そこで完全にストップした。
 何これは と 頭が混乱の悲鳴を上げた。ひとつ ひとつ と 頭が状況を理解をしてゆく。



 長い睫が 目の前にあって

 綺麗な銀色の髪が頬をくすぐって










 くち びる が









 触れ て。














+『The poison is like love.』+





::後書::

ヒツの視点が無いと 何をしだしているのかさっぱり解りませんね。(笑)
あっても解らないけれど。(殴)
雛一人で混乱中。
英語があっているか一人凄く不安になってみたり。(汗)


私は 貴方が何を求めているか知っていますか?