成る程 確かに踊り慣れている。
 へぇと 内心感嘆しながらもステップを踏んだ。1 2 3…無意識下で数字を数えていると ふと彼女と目が合った。


 目の前にある 紅く染まった顔。


 熱気にでも当てられたのだろうか。そんな風に大体当たりをつけて そっと腰に手を回してやんわりと踊りを止めた。
「大丈夫ですか?」
 タン というヒールの音が踊りの一時中断を告げた。
 そっと何を考えるでもなく その額に手を伸ばした。ぴたりと触れると ほんの少し熱い。かといって風邪とかというわけでもなさそうだし 少し外の風にでもあたれば。
 そこまで考えて 自分の莫迦らしさに驚いて 気付かれない程度に息を呑んだ。一体俺は何の心配をしているんだ と 己を軽く叱責した。
 すっと彼女が一歩引き下がって 額から掌が離れた。

「だっ 大丈夫です…!」

 そこで自分がやった事の不自然さに気が付いた。一国の王女に普通に触れてしまった自分の愚かしさに 思わず舌打ちをしたくなった。
 …何やってるんだ 俺は

「…そう です か?」
 慌ててこくこくと頷く彼女に 苦く笑いを返した。

 −自然を装え。自然を。違和感を感じさせるな。

 己のしでかしたミスによる焦りと苛つきを感じる自分にまた苛ついた。
 一曲目が終わり 少しの間だけ音楽が途切れた後にまた 二曲目の前奏が始まった。

 −自然には どうすればいい?

 焦りと迷いの中で ぱちんとまた彼女と目が合うと 慌てて指を絡ませてきた。
 流石に少し驚いて 大丈夫なのだろうかと考えた。そんな不安が頭を擡げ初める自分が 一体なんなんだと情け無くすら感じ始めた。

 それが顔に出たのだろうか。へらりと 彼女は笑った。


 ドッ と また一度だけ心臓がやけに大きい音を鳴らした。


 一刻も早く仕事を終わらせろ。脳がそう警鐘を鳴らし始めた。そう 相手は「モノ」なのだ。有害な「モノ」を消すのは当然の事で。
 警鐘に従って 歯の裏に隠してあるカプセルを舌で器用に外した。

 外側を剥がして ガプセルが溶けるまで 10秒。

 恐ろしい程に効き回りが早い毒薬だ。「あの人」の自作だと聞かされれば納得せざる得ない。
 入れば確実に死ぬことが約束されている。





 拾


 そっと顔を近づけると 彼女はきょとんとした顔をしたが 動きはしなかった。

 九

 肩を優しく抱いて そうして手前に引き寄せた。

 八


 そうして 誰にしたよりも優しく甘い口付けを。

 七


 くすぐったいほどゆっくりと流れる時の間に そっとカプセルを舌で掬い取った。

 六

 微かな躊躇いが生まれた。もし止めれば自分が毒に侵される以外に手だては無い。

 伍


 ゆっくりと 離れてゆく唇に名残を覚えた。
 何十と人を変え重ねた事はあったのに やはり始めての感情だった。

 四

 驚きに 彼女の瞳が広がってゆく

 参

 彼女の頬が一気に紅潮してゆくのをみて 微かに無意識に微笑んだ。 

 弐


 そっと息を吸い込んだ。

 壱


 そうして そっと吐き出した。





 零






 ぞっとするような寒気と共に自らの口から吐き出された血液を 無駄に冷静に見詰めている自分が其処にいた。

「きっ…」



 彼女の顔が ゆがんだ。











+『Why?』+





::後書::

ああもう突っ込むのも疲れます。(汗)
…なんていえば良いんだろうこれ。とりあえずキスの裏側です。
次の日番谷視点の時は 予定では大漁にサブキャラが現れます。(笑)


毒はまるで愛の様だ。