紅に濡れる視界に ぞっとした。
「きっ…」
その後に発せられるはずだった悲鳴は悲鳴にならず 足がガタガタと震え出した。
気付いたときには ぺたんと地面に座り込んでいた。白いドレスが 斑に紅に染まっていた。
周りの人たちがざわりと反応しはじめた。その声すら 頭の中では雑音のように響いていた。
何がどうしたの?どうしてこんなことになっているの?何で?どうして?
ドウシテ。
「…あ…ああ…」
声がガタガタと震えたのが自分でもわかった。恐ろしいぐらいに。
涙が出かけていた。
「何…っ…何なのっ…?!」
ドウシテ
ナンデ
にやりと彼は笑った。
紅に染まりながらも それでも不敵に。
「…残念です」
そっと触れてきたその手は 怖いぐらいに血の気がうせていた。
それでも 温かかった。
それでも 触れていたいほど
「姫様から離れろ!」
力強い怒声が飛んだが それすらも世界の外の出来事のようだった。
「…12時の鐘が 響いてしまう。」
まっすぐ 目が合った。
悲哀を帯びて尚 力強い目だった。
「…嫌」
気付けば声が漏れていた。
嫌。
行かないで。
その声を聞きながら 彼はそれでも笑った。
そっと頬から手が離れてゆく。
ゴーンと重い12時を知らせる鐘が鳴り響いた。
それと同時に 大きな音を立てて窓が割れて 彼がタンと勢い良く飛び降りたのを ただ呆然と見ていた。
何処に行ってしまうの?
じわりと涙が滲んだ事も知らないフリをした。
ぐらりと足場がゆれる感覚がして よろけたところを勇音が支えてくれた。
「…アレは…!」
勇音の手がかすかに怒りで震えている事に気が付いた。
「黒の使者ッ…!」
憎しみの篭もったその声で発せられた単語を 深く深く刻みつけた。
知らない名前だった。誰も教えてくれなかった名前。「姫様には関係無い」単語。
ぎゅっと下唇を噛んで あの人が消えた窓を睨んだ。
今まで祭司達の言いなりだったアタシに 初めて決意と呼べるものが生まれた。
絶対に。
+『If I deid.』+
+戻+
::後書::
強気になって参りました。
いい加減名前を出してあげたいものです。(笑
…いっその事最後までひっぱってやろうか。
何故?